「父親が死んだのはお前のせいじゃない」
「むしろお前はよくやったんだ」



周りの皆は、揃ってそう言ってくれた。しかし容易にその言葉たちを受け入れ「そうですよね」と開き直ることができるほど自分はもう子供ではないと思っている。

父が地球という星のために、犠牲になったことを伝えたときの母の涙が忘れられない。
数日が経った今でも、平気なふりをして健気に明るく変わらない様子で家のことをしている母が、痛ましくて。
これからはいなくなってしまった父の代わりに自分が母を支えなくては。そう思い込んでいたのもつかの間、晩御飯のおかずにと捕まえてきた巨大な魚を抱えて帰るとひっそりと泣いている母の姿が目に入った。
本当なら、自分が慰めなくてはいけないはずなのに、そのときだけは、どうしても母の傍に行くことができず気づけば捕らえた巨大魚を放り投げて空へと舞い上がっていたのだった。


「それでお前は神殿へ来たというわけか」
「は、はい……、」


事情を知った尊敬する自分の師匠が「はぁ、」とため息をつくようにそう言った。

思わずやって来たのは空高くに位置している、本来ならば人が容易に来ていい場所ではないところ。

「ご迷惑でしたか……?」と恐る恐る聞けば「そうは言っておらん」とぶっきらぼうに返された。


「悟飯。お前が何を気にしているのかはわからんが、悟空が死んだのはお前のせいじゃない」


「わかったな」まるで諭すように、言い聞かせるように幼さの残る弟子の頭へと人の姿なりとは違う手を伸ばした。
そんな師匠の優しさと頭を撫でられていることへの恥ずかしさから悟飯は頬を赤くしながら「ありがとうございます、ピッコロさん」と小さく口にした。

「せっかく来たんだ、気のすむまでゆっくりしていけばいい」そう言いつつピッコロは悟飯とは別の方へ視線を変え「構わないだろう?」と問うた。
問われた神殿の主、デンデは「もちろん!悟飯さんなら大歓迎です!」と笑みを零していた。

ピッコロもデンデも、やはり父を結果的に殺してしまった自分を責めることはしない。泣いていた母親を見捨てて逃げ出してきたことも咎めてはくれなかった。けれど、


「(ここに来て、良かったな……――――、)」


悟飯は、父を殺してしまったことを責めて欲しかったわけでも、なぜ母の傍にいてやらないのだと咎めて欲しかったわけではないのだ。ただ、


ほんの少し、息抜きがしたかっただけなんだ――――……。


どこか強張っていた肩の力が抜けて、安堵に包まれた悟飯はふとした気配に歩めていた足をピタリと止めた。
それは師匠のピッコロも同じなようで、感じた気配が何なのかを探っている様子だった。一人気づいていないデンデは「どうかしたんですか?」と首を傾げている。


「何か、来る」


「えぇ!!?」


「ここにですか!?」と驚くデンデ。「わからないけど、すぐ近くに気を感じる」と悟飯は気配を探りながら言った。(一体どこから?)

ここは神の神殿。空高くに位置しているこの聖域は早々易々と来れる場所ではない。そもそもこの神殿の存在を知っている者すらごく稀なのだ。やって来たとしても、それは悟飯たちの顔見知りしかいないはず。

しかし感じる気は悟飯の知っている者の気ではない。――否、


「(なんだろう……、どこか懐かしい感じがする)」


どんどん気配が近づいてきている。「っ……――!!」


「「そこだッ!!!!」」


悟飯とピッコロの声が重なった瞬間、ほんの目線の上に現れた眩い光。
神殿を覆ってしまうほどの光の強さにその場にいる誰もが「くっ、」と目を細めると、光はあっさりはじけて消えてしまう。

「なんだったんだ」考える暇もなく消えた光と変わるように何かが現れた。それは重力に逆らうことなくドサリと音立てて地面に転がる。

それは、まぎれもなく人の形をしていた。


「に、人間だと…………!?」


急に現れた人物に驚きを隠せないピッコロ。デンデもどのようにしてこの神殿に来たのかが気になるらしく、少し離れた場所から様子をうかがっている。

間違いなく悟飯たちが感じていた気の正体は急に現れた人間のもの。一体どうやって?気になることは多々あるものの一番に目につくのは痛々しい傷の数々だ。
地面に落ちたときに出来た傷なんかではない。確実に何者かと戦って出来た傷だ。

ゆっくり、ゆっくり、ピッコロが近づいても、起き上がる様子はない。


「死んではいないようだが、気を失っているな…………、」
「な、なにがあったんでしょう…………?」


服はところどころ破れ、うつ伏せに倒れているのをピッコロが仰向けに直しても、目を覚まさない。そこで改めて気づく。倒れているのが悟飯とそう歳が変わらないくらいの少女だと。
おまけに肩から腹部にかけて大きな切り傷があり、「よくこれで生きているものだ」とピッコロは思わず関心する。しかしこの状態を放っておけば、間違いなく死ぬだろう。

「どうしたものか……」そう心の中で呟くのと同時に今まで黙っていた悟飯が口を開いた。「っ――、」


「――………ことはさん!?


「お、おい悟飯!」


ピッコロの後ろから様子を探っていた悟飯がもう一度「ことはさん!」と言って倒れている少女に近づいた。

「無暗に近づくな!」という師匠の制止も聞かずに気を失った少女の、おそらく名前を何度も呼び続けている。


デンデお願い!彼女の怪我を治してあげて!
「えぇ!?で、でも」


まさかの悟飯の願いに「ど、どうしましょう?」と遥か高くに視線を向け戸惑いを見せるデンデ。
弟子の焦りように驚きつつも、ピッコロは冷静を装い「悟飯、そいつは誰なんだ」と問う。しかし、


「事情はあとで必ず説明します!だからお願いです!」


ことはさんが死んでしまう!


今にも泣きだしそうな、悟飯の顔。
そんな風に言われてしまえば「ダメだ」とは言えず、つくづく甘い奴になり果てたものだとピッコロはため息をつきたくなるのをこらえ静かに「デンデ、」と名前だけを呼び、少女の怪我を直してやるよう促した。
デンデが「は、はい!」と慌てて倒れている少女に手をかざすとたちまち傷が癒えていく。それを見ていた悟飯はぱぁ、と顔を明るくし「ありがとうございます!」と深々礼を言った。


「あとできっちり説明してもらうぞ」
「はい!」


地球の神――デンデ――によって傷は癒された。

しかし少女ことはの目は、まだ覚めない。


PREVTOPNEXT
INDEX