文ストプラスC

※マフィア時代の太宰(大体13~14歳のイメージ)。

「可哀想に」と人は云う。
 欲しくも無かった能力を持ち、今日も望みもしない仕事を押し付けられる。
 自分を哀れだなんて思いたくないのだけれど、それでも。

「嗚呼、可哀想に」
 自分に向けられるその視線を、私は遮れずにいる。


 幼いころからその組織に居た。親に捨てられ、組織に拾われた私は年若い少女でありながら、殺し屋だった。持った異能力が『ついうっかり』暗殺に適したものであった所為で、やりたくもない仕事ばかりをさせられる。

「い、厭だ、厭だ厭だ厭だ殺さないでくれ、たのむ、ぎゃあああああっ!!」

 暗殺ならばまだいい。何回やっても人殺しに慣れない私は今日もしくじった。目標に姿を見られてしまった。
 こうなってはもう正面から殺すしかなくて、悲鳴を聞かないようにしながら短刀を突きつける。

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、私はとんでもない悪人です。でも私はしにたくないのです、だからあなたをころすしかないのです。

 さようなら。貴方の事は決して忘れません。本当は殺したくなんてなかったのだから。


「今日も血塗れだ」「可哀想に」「あんな若い子が」
 私の組織は下に行けば行くほど優しい人が多い。そして汚い仕事は其方に回ってくる。雑用とか、人殺しとか。

 それでも私が此処を抜け出せないのは、殺されるのが怖いからだ。だからせめて、もっと残虐な仕事が回ってこないように、組織の下層に留まり続けている。将来はもっと上の立場になることをほのめかされはしたけれど、女の身一つであんな汚い人たちの下へ行きたくない。

 もう十分自分は汚れているけれど、それでもこの現状が、生きていたいだけの私の精一杯なのだ。

「可哀想」

 自分でいうのはとても惨めだけれど、その言葉が一番私にはお似合いなのかもしれない。


 その日も対象を始末して、やっと一息ついていた。また見つかってしまって暗殺は失敗。喉元を掻っ切って、護衛まで全部殺して、ついでに近くに居た仲間まで殺した。私は血塗れ。

「わあ、噂に違わず可愛い子」

 勢いよく振り返ると、其処には先刻までは居なかった、私と同じくらいの年頃の少年が見えた。白い襯衣に黒いネクタイが揺れる。白くて細い、沢山巻かれているのは、包帯?

 何だか、出逢ってはいけない者に出逢ってしまった気がする。でもこの少年は目標ではない。筈だ。この人たちの仲間ではない気がする。『まだ』殺してはいけない。

 『可哀想』は云われても『可愛い』は初めてだった。然しそんなことより聞き捨てならないことを聞いた気がする。

「……噂」
「そうだよ、噂。可愛らしい殺人鬼。君、暗殺者にしちゃあ短期間で噂が広まりすぎだよね」

 『殺人鬼』。何という誤解だ。だって私は、

「好きで殺しているわけじゃない。だから」
「そう?だって君、態と姿を現していたじゃないか」

 ひゅっと喉が鳴った気がする。

「幾ら素人でも何十回もやっていたら気配の消し方くらい覚えるでしょう。君の其れは素人以下っていうよりは、寧ろ隠す気が無いと云った方が正確だったね」
「そんなことない。私は一生懸命やった」
「うんうん、一生懸命殺してたね。楽しそうに」

 ――――駄目だ。

「あっ、待ってよ、もう少しお話ししよう」

 ――――この少年と話していては駄目だ。
 それは本能からの警告だった。何も云わずに短刀を構える。

「まあ仕方ないか。君、人を殺すのが大好きだもんね」
「―――――黙れっ!!」

 風を斬る音が響く。短刀の刃は私の動きに合わせて真っすぐ、少年の首に巻かれた包帯ごとその喉を、

 ――――掻き切る筈だった。

「残念、また死ねなかった」

 のんびりとした声が聞こえる。何故。
 私の異能力で、『この人の死が確定する』筈じゃあないのか―――真逆。

「……太宰、治」
「あれ、私の名前知ってるの?」
「『人間失格』……異能力無効化」

 知らない筈もない、だってそれは私が一番出逢ってはいけない人物の名だ。だって私は、異能力が無かったら。

「あれ、殺さないの?……異能力が無くたって、その短刀を突き立てられれば私は死ぬよ?」

 殺せない。だって私は異能力の所為で人を殺しているのだから。
 異能力の所為なんだ、私の意思じゃない。

「ああ、そっかあ」

 でも少年は笑う。にっこりと。慈悲すら感じる笑顔で。

「云い訳が無くなるもんね。異能力が使えないと」
「…………な」
「君は『可哀想な子』だものね?人を殺して喜んでなんかないもんね。態と見つかって、態と残虐な殺し方をしてるなんて事、ないもんねえ?」

 否定形はその事実を私に突き付けていた。それが真実なんだろうと私を責め立てていた。

「ミュンヒハウゼン症候群かな?君の其れもある意味自傷行為だよね」
「―――――五月蠅い!!」

 感情が吹っ切れて叫ぶ、五月蠅い五月蠅い、私は可哀想なの、可哀想でなくてはいけないの!!

「心配してもらえるの!もう二度と捨てられたくないの!私は可哀想な女の子じゃなくちゃいけないの!!」
「ふうん。可哀想な女の子を演じてかつ殺人の欲求を満たすには、今の立ち位置が一番だと云う訳か」
「…………死ね」

 生まれて初めて人に死を望んだ。此奴が、此奴さえいなければ。

「貴方なんて死ねば良いのに」
「それは此方の台詞かな?君の生き方は反吐が出るよ。道化の自覚も無い侭で、滑稽かつ無様だ」

 初めて殺意を人にぶつける。然し握り締めた短刀は、何時まで経っても動かない。

「……死ねば、良い」

 結局私は、『可哀想』な侭で居たいのだ。
 可哀想に可哀想に。早く帰って慰めて貰おう。非道い事を云われても殺せなかった事を。

「…………」

 背を向けて歩き出す。頭の中にはもう少年は居らず、『同情して貰う為の材料』が居るだけだった。



「ふふふ、面白い子見つけちゃった」

 想像以上の収穫に、思わず太宰はスキップしそうになる。勝手に出歩いて、敵組織の人間と邂逅した事を森に咎められるかもしれないが、そんな事は如何でも良い。

「何と可愛らしい」

 可愛らしい子。可哀想な子。
 あの子は本当の家族も仲間も知らない、だから、組織内で向けられる視線が、温かい感情からのものであると無意識に信じている。なんて滑稽な子!

「却説、如何しようかな。あの子の生き方は死ぬほど嫌いだけれど、あの子で遊ぶのはきっと面白い」

 きっと良い踊り方をしてくれるに違いない。

 如何やって遊ぼうか。先刻みたいに突き放して責めて地獄の底に叩きこもうか?それともどろどろに甘やかして溺れさせようか。

 嗚呼、それが良い。本当の優しさなんて知らないから、遣り方次第で直ぐに依存するようになるに違いない。そうなればあの子は自分の物。自分の人形。良い玩具だ!

「でもそれには準備しないとね。ふふ、忙しくなるなあ!」

 先ずはあの組織を潰さなくては。あの子の帰る場所、あの子の頼りそうな人物、あの子が日頃歩く建物、あの子が使う部屋、あの子の日常、それらを全部壊してしまえ。
 迎え入れた後の環境も工夫しなくては。その為には地位が要る。あの子が逆らえない様な、あの子の扱いに、誰にも文句を云わせない様な。

 そうして何時か迎えに行こう。君の場所は此処だよと、私が君の唯一の理解者だよと云い乍ら。拒まれるのは想定内。云い聞かせる甘い言葉の練習をしなくては。幸い練習相手は沢山寄って来る。


 自分は可哀想だと云いながら、太宰という存在に依存して、

「そうして、そうやって、何時か」

 私の腕の中で死ねば良いよ、可哀想な子。



 死体が折り重なる中、咽かえるような血の匂いの中で。
 黒い外套を翻し、少女の前で青年が微笑むまで、あと数年。
ツイート:2017.07.24
お題箱リクエストより「死ねばいいと吐き捨てた」


※何だか御狐太宰さんがストプラにいっぱい流れてますが、「エライ妖力持ってる狐・太宰をそんな実力ないのに使役することに為っちゃった落ちこぼれ霊媒師女子のハートフルな殴り合いラブコメ()」とか落ちてませんかねどっかに(なおそっち系はにわかなので適当)
※・霊媒師としての実力は最低クラス
 ・でもなんかお家の事情(適当)で最高クラスの妖狐を使役することになってしまった
 ・太宰は夢主に敬語&「御主人」呼び(普段)
 ・基本殴り合いみたいな会話

「ああああこの駄狐!!酒ばっかり飲んでないで仕事を手伝ったら如何!?」
「そんな事云いましても御主人、私とて利益が無い仕事はしたくありません」
「いやいや貴方は!私の!使役している!!狐でしょうが!!」
「何時までも私なんぞに頼っていると自立も出来ませんよ〜ご安心ください、私は此処で見守っています」
「もう!力はトップクラスなのに……!……はあ。こんな事なら今からでも使役する獣を変え―――」
「………………は?今なんと、御主人?」
「え、いやだって、貴方だってこんな小娘に仕えるより、もっと上位の霊媒師の方が」
「それで?私以外を従えるわけ?」
「(口調変わってる、というか表情が怖い)」
「君なんかに従うモノなんて私以外に居ないよ?」
「い、いやそれこそ貴方だって私には過ぎたるものじゃ……」
「……ふうん。判ったよ、其処まで云うなら仕事をしようじゃないか。君に相応しいのが誰か判らせてあげよう、御主人様?仕事が終わったら覚悟しておくことだね」
「何を!?」
ツイート:2017.07.26
お家の事情…とある狐『あの子に私以外をあてがったら潰す』


※続き
※あの後仕事(霊を祓ったり)が秒で終わり御主人真っ青

「な……な……」
「さあ御主人、先程の続きだけど」
「す……」
「君が私を拒むのなら此方も考えが―――」
「凄い!!」
「有る……え?」
「凄い!格好良かった!なんだ心配して損した……やれば出来るじゃない!」
「え、あ、ハイ……ふふっ」
「?」
「嗚呼、いえ、何でもありません、御主人」

(この私にそんな事云うのは君くらいだよ)
ツイート:2017.07.26


狐の太宰は、人間である恋人に「愛してる」とは云わない。何時も「好きだよ」と云う。ある日其れに気付いて少し悲しくなる彼女。
「あの……」「ん?」「私は、」
所詮人間だから、貴方に好かれはしても『愛される』事は出来ないのですか、と
「……君は思い違いをしている」

「私は狐で、獣だ。君とは違う」
「…………はい」
「だからきっと、私が心の底から君を欲すれば」
―――君を押し潰すかもしれない。
「私は君と一緒に居たいんだ。なるべく長く、出来ればずっと。だから」
君が好きな私は、君を愛することは出来ないと、悲しそうに狐は笑う

―――狐と云う生き物はとても狡猾だ。
「……っ、そんなの、私は」
況してや化け物ならば、尚更。
「貴方の愛の形がどんなものでも……私は貴方と共に居ます!」
「……本当に?」
震える声は泣くのを堪えて居る様に聞こえるだろう、少女には。

「……約束だよ?」
―――君が云ったのだからね?

その口が弧を描いている事など、少女は露知らず
ツイート:2017.07.26

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