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何も聴こえなかったその空間に、自身の切れた息が響き出すとワッと一斉に歓声が耳へと入ってくる。
カァっと身体中が火照りだしたのを感じながら、深い礼をする。それからファンからリンクへと入れられたであろう一輪のバラを手にしてリンクをあとにする。
「輝羅々、お疲れ様。いい演技だったわ〜!」
リンクサイドに行くとコーチではなく、ミナコ先生が待っていて私へやんややんやと世話をやいてくれた。
うんうんとミナコ先生の話を聴いて、私はキスクラに一人で入っていくのだ。随分前から私はコーチを持たない。
『神谷選手の得点が発表されます!…………おぉぉお!二位と大きく差を開いて総合1位です!グランプリファイナル3冠を決めました!日本の神谷 輝羅々!』
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「勇利」
グランプリファイナル6位、メンタルの弱さ故に実力を発揮出来なかった幼馴染は酷く沈んだ様子で私の前に現れた。
「輝羅々、あの。」
「とりあえずお疲れ様。」
眉を八の字にしている彼の頭をいつもみたいにやんわり撫でると、ちいさくありがとうと呟いた。そんな弱々しい声に少しだけ参った私は、
「長谷津、帰ってくればいいよ。ヴィッちゃんにも会いに行こう。勇利は大丈夫。」
それだけ伝えてエキシビションの用意をしに私は去った。あの後トイレで泣いてたなんて知らずにね。
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「神谷選手、今シーズンもとても良い調子ですね。年齢から引退など囁かれていますが……」
「引退はしませんよ。まだやりたいことたくさんあるんですから。」
最近のインタビューは引退の話題が多い。私の年齢にもなると退く選手が多いからだろう。引退を否定すれば今シーズンの演技について、来シーズンについて流れるように話は進んでいく。
「男子優勝のヴィクトル・ニキフォルフ選手についてどう思いますか?」
「素晴らしいと思いますよ。表現力といいあの演技構成……見習うべき場所がたくさんある選手の1人です。」
「ありがとうございました。今後の活躍も期待しています。」
「ありがとうございました。」
笑顔を作って一礼をして出ていく、さぁホテルに戻ったらバンケットの準備しなきゃ。それから少ししてから長谷津に帰って、来シーズンの演技構成を考えよ。
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