スイッチ
「風呂入るぞ、ニーナ」
「……いってらっしゃいまし」
「てめぇ、言葉の理解力ねぇな。入るぞっつったら、一緒だってこと理解しろ、グズ」
「え?嫌ですよー。恥ずかしいじゃないですか!」
「何がだ。お前の身体なんて、隅から隅まで食っちまってるんだ。今更何言ってやがる」
もー!
すごく恥ずかしい!何もかもが恥ずかしい!!
今日も1日訓練やら執務やらで忙しかったんだから、お風呂くらい何の気兼ねなくゆっくり入りたいんですけど。
とは面と向かって言えず、黙ったままソファから立ち上がらないでいることが、リヴァイ兵長に対する私からの唯一の抵抗。
「おい、さっさとしろ、ニーナ。何ならここで身ぐるみ引ん剥いてやったっていいんだからな」
「追い剥ぎですか!?勘弁してくださいよ、兵長」
「だったら早くしろ」
今までお風呂に一緒に入りたいだなんて要求されたことなんて一度もなかったのに。
そもそも潔癖な兵長が、恋人とは言え、入浴という身体の汚れを落とす行為を一緒に共にしたいなんて信じられない。
こんなことを兵長が言い出すには、絶対に見えない力が働いたんだ!そうに違いない!!
誰かが絶対兵長のお風呂スイッチをオンにしたんだ!
突き止めてやらねば!!
「あの…つかぬ事をお聞きしますけどね、どうして突然一緒にお風呂だなんて思ったんです?もしかして、1人でお風呂に入るのが怖くなっちゃったとか?…なわけないですよねぇ」
「それを聞いてどうする。聞いてさっさと入るんだったら教えてやる」
それもやだなぁ。
けど、気になる!
ことと次第かなぁ。
「理由によっては、考えます」
「なら、教えられん」
「ええ!?もう、兵長ってば頑ななんですからー!」
「お前もな」
うーん…一緒に入浴っていうのを回避するにはどうすれば…。
ソファに更に腰を埋め、思案する。
うーんと、うーんと…うーん…ん?
ツカツカと近寄ってきた兵長は、私の隣りにどさりと腰掛けてきた。
視線を移すと、バチッと音がするくらいに目が合ってしまった。
モタモタしてるからイラついてるかと思ったけど、そうじゃなかったから、意表を突かれてしまい、ドキンと胸が鳴った。
いつもは私を射抜く勢いある鋭い目が、とても寂しさを帯びていた。
「…そんなに嫌なものか?」
「嫌とかそういうんじゃ…ないです……恥ずかしいだけなんです、ほんとに……」
悲しそうな声で訊かれたものだから、私の言葉も自然と尻すぼみになる。
何だか悪いことしてるみたいな錯覚に襲われてしまった。
「そうか…無理強いするつもりはなかった。ただ、ニーナと過ごす時間を少しでも取れたらと思ってな…悪かった…」
「いえ…謝らないでください。私も少し意地になってしまいました」
何…この空気…。
すごく申し訳ない感じ。
兵長は私との時間を大事にしようと思ってくれたのに。
それに引き換え、私は何てことを。
「わかりました……決めました、私。兵長!入りましょう!お風呂!」
意を決したものの、恥ずかしさは消えなかったから、床に向かって決意表明をした。
そうするや否やソファがギジリと音を立てたかと思うと、いきなり手首を掴まれて立ち上がらされ、兵長は浴室に勇み足で私を連れ立った。
展開の早さについていけない自分が恨めしい。
「…ちょろいな」
「え?今なんと?」
「何も言ってねぇ」
「嘘ですよね!?絶対何か言いました!」
「ほら、行くぞ、ニーナ。てめぇの気が変わらねぇうちにな」
私の前を歩く兵長が振り返る。
それはそれは、悪い顔をされた兵長殿。
やられた…!
呆気に取られていたら、急に兵長が振り返るもんだから、至近距離で私も踏み止まった。
グイッと後頭部に手を回され、更に距離は詰められ、お互いの呼吸が交わる。
「いいか、覚えておけ。押して駄目なら引いてみろ、だ」
そう言い放つと、いきなり首筋を噛まれた。
痛いです、へいちょー…と情けない声を出しても、まだ離してはもらえない。
「痛いだけじゃないだろ」
そこに唇を当てられたまま、喋られたせいで、身体に特有の甘い痛みが駆け巡る。
「そう、ですけど……。…ん……や………」
噛んだところを軽く吸われ、最後は舌で舐め上げられた。
自然と柔らかい声がもれてしまう。
「続きは風呂でしてやる。行くぞ」
ぽぉっとする頭にさせられた私だったけど、恥ずかしさが舞い戻ってきたせいで、兵長に引きずられるようにずるずると浴室に運ばれた。
そのあとは、俺を待たせたお仕置きだとか何とか言いながら、辱めを受けた私。
結局、兵長のお風呂スイッチ入れたのは誰だったのだろう。
*おわり*
(くだらない内容ですが続き書きたいです)
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