はじまり


ふと目が覚めた。
窓から射し込むのは月明かりだけで、まだ夜中だとわかる。
まだ起きるには早いと、布団を被り直して再び眠りにつこうとするが、一度目覚めた頭はなかなか直ぐに夢の中へと旅立ってくれない。
仕方ないと気分転換も兼ねてトイレに行こうと部屋を出ると、誰もいない廊下はしんと静まり返っていた。

用を済まして自分の部屋に戻ろうと廊下を歩いていた時、ふと半兵衛の部屋の前で足が止まった。
何か違和感があるわけでもない。だが、何故か心がざわついたのだ。
それを確かめるように部屋をノックする。

「…半兵衛。」

この時間なら寝ていて当たり前なのはわかっている。
でも、心のざわつきは収まらなかった。

「開けるで。」

ノブを捻ってドアを開く。

「…半兵衛…?」

そう広くない部屋を見回すが何処にも彼の姿は無かった。
どくんと心臓が痛む。

きっと何か用事があって…

そう思おうとするが不安はどんどん大きくなる。
急いで秀吉の部屋に向かう。

「秀吉!」

いつもと変わらない部屋。
だが、その部屋の主だけがいない。

「三成!刑部!左近!」



全ての部屋を片っ端から見て回っても誰一人居なかった。
部屋はいつも通り。
それなのに何故、何故、何故。

靴も減っていない。
何処、何処、何処。

頭が、心臓が、痛い。

目の前が暗くなる。

秀吉、半兵衛、三成、刑部、左近……何処……うちを…一人に…しない…で…………

















床の固さと冷たさに違和感を覚えて目が覚めた。
ここはどこだろうか。
暗くてよく見えないが何処かの倉庫のように感じる。
手探りで立ち上がり、ぺたぺたと壁伝いに出口を探していく。


「誰か居るのか!」

静かな暗闇に男の声が響いた。
ひょっとすると助けてもらえるかもしれない。
そう思って声が聞こえた方に歩いて行き、扉の取手に手をかけようと手を伸ばしたが、その手は宙をかき、開いた扉から光が差し込んできた。
突然の眩しさに目を細める。

「だ、誰だ貴様は!曲者か!?捕まえろ!」

「え!?ちょっ!痛いっ!」

反論をする間もなく後ろ手に縛り上げられ、そのまま訳もわからないまま地下牢に閉じ込められてしまった。







ここに入って何時間が経っただろうか。
ひょっとすると何日も経ったのではないだろうかと思える。
時計も無ければ日の光も一切射さないため、正確な時間はわからない。

ここは何処なのか。
何故こんなところに居るのか。

そんな疑問よりも頭を埋めるのは居なくなったみんなの事。


早く会いたい。


そんな不安と疑問と寂しさに押しつぶされそうになっていた時、初めてこの牢の前に人がやって来た。

「あ、あの!」

「何だ。」

灯りを持った男が此方を向く。
さらに口を開きかけた時、ふとあることに気付いた。

着物…?

その男はテレビでしか見たことの無いような着物を着て、手には行灯を持っていた。

「あの…これは撮影かなんか?ドッキリとか?」

「何を訳のわからぬ事を言っている。」

これは…もしかして…

ある1つの可能性が頭をかすめる。

「えっと…ここは何処なんでしょうか。」

「城の地下牢だ。」

「…何て名前のお城ですか?」

「貴様、自分が何処の城に忍び込んだのかわかっていないのか?大坂城だ。」

やっぱり。と小さく呟く。

自分の予感は当たっていたようだ。
みんなが自分の世界にやって来たように、今度は自分がみんなの世界に行くのはありえる。
きっと、いなくなった五人はこの世界にいる。
そう確信していた。

「じゃあ、秀吉に会わせて!」

早く会いたい。
秀吉に会えば誤解も解ける。

「はっ、何を言うか。貴様の様な者に秀吉様が会うわけなかろう。」

鼻で笑われ、そういえばこの世界では秀吉は一国一城の主だったと思い出す。
そう易々と会えるはずは無いか。

「じゃあ、半兵衛は?三成、刑部、左近は?誰か一人でいいねん。お願いやから会わせて!」

「ならん。どこぞの者かも解らぬ者に会わせることは出来ぬ!」

「そんな…」

誰にも会えなければ誤解も解けない。
ここからも出ることはできない。
皆にもう会えないの?

「…やったら…せめて…名前だけでも伝えて。夢野夢女。それだけでいいから。」

「…仕方ない。」

「あ、ありがとう!」

一縷の望みを懸ける。
この名前を聞いた誰かが会いに来てくれるのを。




 





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