間違えた


ずっと悩んでいたけど、決心した。
今日こそあの人に想いを伝えよう。

徳川家康君に。




みんなに優しくて人気者の彼はいっつも忙しそうでなかなか捕まらない。
というか気が付けば忠勝君と飛んでいってしまっている。
なので、ラブレターを渡すことにした。

徹夜でやっと書き上げたそれを持って下駄箱へ。
ベタだけれども、ほとんど接点のない私としては最善の策だと思う。






放課後、手紙で指定した体育館裏に向かう。

来てくれるだろうか。
いや、優しい彼ならきっと返事を告げに来てくれるだろう。

ドキドキしながら角を曲がると人影が見えた。
急いで来たつもりだったが、彼の方が早かったようだ。

小走りで向かうとその人物が振り返る。
あれ、家康君じゃない。
というか……石田君!?

振り返ったその人物は家康君をいつも目の敵にして追いかけ回している石田三成君だった。
正直、石田君は苦手だ。
目付き悪いし。
恐いし。

何故こんなところに居るんだろうか。
どうでもいいがここに居られちゃ困るので、恐いのを我慢して話しかけた。

「あの…石田君、その…」

ドキドキする。
さっきまでのふわふわするようなドキドキではなく、身の危険を感じるようなドキドキ。

私の言葉を遮って石田君が声をあげた。

「かまわん。」

……何が?
意味がわからずぽかんとしていると、石田君が学ランのポケットから紙を取り出す。
薄い桃色のそれは、私がよく知っているものだった。
むしろ今朝まで私の手元にあったもの。

家康君にあてたラブレター。

「え、なっ…なんっで…どうっ…」

口がパクパクと動くだけでうまく言葉が出ない。
そんな私をしりめに話を進める石田君。

「私の下駄箱にこれを入れたのは貴様だろう。宛名も差出人も書いてなかったがな。」


書き忘れ?
下駄箱に入っていたって…
もしかして私、間違えた!?
どうしよう。どうしよう。

一人あわあわとしていると、石田君が一枚のメモ用紙を渡してきた。

「私の連絡先だ。登録しておけ。」

「あ、あの…」

「私は今から生徒会の仕事がある。何かあればそれに連絡しろ。」

終始恐い顔をした石田君は自分の言いたいことだけを話して、さっさと校舎へ向かって去っていってしまった。
あとにはぽかんと佇む私とメモ。


どうしよう。
恐いよ。







「はぁ?何をしてるんだおまえは!」

とりあえず、さっき起こった出来事を幼い頃からの友人であるかすがに話した。

「本当、何してるんだろねー…自分。」

今朝の自分をぶん殴ってやりたい。
いや、宛名を書き忘れた昨夜の自分か?


「で、どうするんだ。」

新体操部の休憩中であるかすがは、タオルで汗を拭いながら聞いてきた。

「…どうしましょう。」

「どうしましょうじゃないだろう。さっさと間違いだったと話してこい。」

「でもあの顔見ると恐くて…何か切り刻まれそうでさぁ。」

「まぁ、気持ちはわかるが、時間が経てば経つほど気まずくなるぞ。連絡先を教えてもらったんだろう?電話かメールで伝えたらどうだ。」

「そうだよね…うん、そうする。電話は声が恐いのでメールにしようかな。」


メモに書かれたアドレスを登録し、文面を打つ。



『夢野お嬢です。
さっきはすいません。
大事なお話しがありまして、本当にすき』



「かすがー。休憩おわりだよー。」

文面を打っていると、新体操部の部員がかすがを呼びに来た。

「わかった。お嬢、すまんが部活に戻る。明日は休日だし、話の続きは明日しないか。また連絡する。」

「ありがとう。部活がんばってきて。」


手をふってかすがを見送り、メールの続きを打とうとケータイに向き直るが、画面がメール作成画面でなくなっていた。
その代わりに『メールを送信しました。』の文字が表示されている。
慌てて中止ボタンを連打するが時すでに遅し。

どうしよう。
文面途中だったんだけど…何て打ってたんだろう。

確認しようとメール画面を開くと同時にメールを受信したケータイが震える。
見ると差出人は石田君。
慌ててメールを開く。


『私もだ。
生徒会が終わったら話がある。
門の前で待っていろ。』


本当は会いたくない。
恐いもん。
でもこの威圧感のあるメールに拒否の返事を返すだけのメンタルが私には無かった。










「さ、寒い…」

メールの指示通り門の前で待っていたのはいいが、石田君に連絡がつかないため、生徒会の仕事がいつ終わるのかわからず、かれこれ一時間近く待っている。
10月とはいえ、日が暮れると気温がぐっと下がる。
まして何もせずにじっと立っているだけなので余計に冷える。

石田君から連絡が入っていないかケータイを取り出して確認しようとするが、指先が冷えてうまく触れない。
暖めようと手を擦り合わせていると後ろから声をかけられた。

「待たせか。」

振り返ると数時間前と同じ仏頂面の石田君がいた。

「あ、いや、全然大丈夫です。」

大袈裟に手を左右にふる。
すると、石田君は私をじっと見た後、待ってろと言って何処かへ行ってしまった。

まだこれ以上待てというのか!
なんという鬼畜!

仕方がないので寒さを堪えて待っていると石田君はすぐに戻ってきた。

「手を出せ。」

素直に手を石田君に向けて出すと、手のひらに温かいものが乗せられた。

「紅茶…?」

それはいつも私が飲んでいるミルクティーだった。

「あ、ありがとう!えっと…お金…」

「いらん。」

そう言ってスタスタと歩き出す石田君。
慌てて追いかけて隣を歩く。





しばらく無言で歩く二人。
なんだか気まずい。

何か喋らなくては!
何か盛り上がりそうな話題は…
いやいや!じゃなくて、誤解を解かなければ!

石田君の方をチラリと見上げると、眉間にシワを寄せてとてつもなく不機嫌そうだ。

無理。
絶対残滅される。


下を向いて少しでも早く家に着くことを願いながら歩く。

「明日、予定は空いているか。」

「えっはいっ。」

急に話しかけられ、思わず返事を返していた。

「ならば、明日の14時に駅前に来い。拒否は認めない。」

「え、は…?」

見上げると石田君と目が合う。
クラスの女子がかっこいいと噂するだけあるなぁと端正な顔を思わず見つめてしまっていた。

「どうした、お嬢。」

急に名前を呼ばれて心臓がはねる。

「いや、なんでもないです!」

「そうか。」

そう言って再び黙りこみ、無言で歩く二人。
先程と違うのは私の鼓動が耳につくことだ。










「ということで明日、出掛けることになりました。ははは…」

そう伝えると電話の向こうから大きな溜め息が聞こえてきた。

『早く誤解を解けと言ってるのに何でデートの約束をしているんだ。』

デート。
言われて初めて気付いた。
そうか。デートか。

そう気付くと一気に恥ずかしさが込み上げてきた。

「ど、ど、どうしよう!私デートなんかしたこと無い!何着ればいい?どうしたらいい!?」

『おまえは石田とデートに行きたいのか、行きたくないのかどっちだ。』

「それは…」

石田君はやっぱりよくわかんないし恐い。
でも、今日貰った缶が温かかったことが脳裏を過る。
彼を知りたい。
そんな思いが強かった。

「とりあえず、明日行ってくるよ。」





 





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