お見舞い


病院の白い天井をぼーっと眺めていた。

何日入院してるんだっけ。

あの日、家へ戻る途中に銀さんにばったり出会い、血塗れの私を見て驚いている銀さんにそのまま病院に連れて行かれてしまったのだ。
結局、全身打撲やら数ヶ所骨折やらで緊急入院となってしまった。



「おーい。見舞いに来てやったぞ。」

「邪魔しに来たアル!」

ノックもせず突然部屋に入って来るなり、椅子にどっかりと座る銀さんと神楽ちゃん。
二人してテーブルに置いてある見舞いの品を物色しはじめた。

「見舞いのわりに手土産は何もないんだな。」

「今新八に買いに行ってもらってんの。もうすぐしたら来るから待ってろって。」

「お嬢ちゃん!これ食べてもいいアルか?」

そう問いかけながら、先日さっちゃんが持ってきた納豆チョコの箱を嬉しそうに持っている。

「あー…私は食べないから全部食べて。」

「まじでか!」

その言葉を聞いて嬉しそうに包みをビリビリと破り、夢中でチョコを頬張る神楽ちゃん。


「それにしても結構大変だったみたいだな。真選組のやつらもあれから随分忙しそうにしてやがったし。」

「そう…。」

真選組は私を指名手配しているのだろうか。
隊士の皆は私を裏切り者と憎んでいるだろうか。
近藤さんも私を…。

暗い考えを巡らせているとノックの音が聞こえ、病室の扉を開けて新八君が入ってきた。

「いらっしゃい、新八君。」

「体調はどうですか?あ、これお見舞いです。って言ってもさっきそこの売店で買った物ですけど。」

「ありがとう。あ、どろどろプリン。これ好きなんだよねー。ナイスチョイスだよ新八君。」

袋を受け取り、ガサガサと中を漁ってプリンを開ける。
スプーンをくわえながら新八君に椅子をすすめると、新八君は礼を言って座り、そういえばと思い出したように話しだした。


「さっき受付で近藤さんを見かけたんですよ。何か花束持ってたんでお見舞いですかね?」


プリンがスプーンからこぼれ落ちた。
いや、新八君の言う"近藤さん"が私の知る"近藤さん"とは限らない。
慌ててシーツに落ちたプリンをティッシュで拭き取った。

「ふーん。あのゴリラに花なんて似合わないアルな。」

拭く手が止まる。
"ゴリラ"
"近藤さん"
世の中にゴリラの近藤さんってそんなにいるのだろうか。


「ねえ、その近藤さんって…」

「さて、じゃあ俺らは帰るか。」

「え、何でですか!?僕、今来たとこなのに!」

「まだこれしか食べてないアル!」

「いいから帰るんだよ。神楽はこのんまい棒100本セット持って帰っていいから。」

「ならいいアル。お嬢ちゃん、また来るネ。」

「あ…」

その近藤さんについて質問をしようとするが、バタバタと帰る準備を始めてしまった。
何なんだ一体。

「じゃあな、また来るわ。」

そう言って扉を開けて出ていこうとした。

「「「「あ。」」」」

丁度扉の前に誰か居たらしい。
私からは三人の影になってその人物が見えない。

「どうした?」

その問いかけには答えず、銀さんが首だけこちらに回してにんまりした笑顔を見せた。

「まぁ頑張れよ。」

手をひらひらさせながら部屋を出て行ってしまった。
何の話だ?
そう問いかけようとした時、その人物が3人と入れ違いに病室に入ってきた。


近藤さん。


大きな薔薇の花束を片手に松葉杖をつきながらひょこひょことこちらに近づいてくる。
紛れもなくあの近藤さんだ。

「なん…で…」

「俺の気持ち、まだお嬢ちゃんに言ってなかったから。」

ベットまで来たところでぐいっと花束を私の前に差し出してきた。


「お嬢ちゃん、大好きです!結婚を前提にお付き合いしてください!」


「は?…何で…急に…私の事が…えっなんで?」

「急じゃない。お嬢ちゃんが屯所で働いてる時から惹かれてたんだ。」

「……私、近藤さんの事騙してたのに…。…私の事恨んでないの?」

「まあ、騙されてた事はショックだったけど、こんな身分だ。命狙われるなんていつもの事だし、恨んじゃいないって。」

ガハハと豪快に笑う近藤さん。
もう二度と見れないと思っていた近藤さんの笑顔が嬉しくて目の前が滲む。

「でも…お妙さんは…。」

「あ…いや…お妙さんは好きだったが、今はそれ以上にお嬢ちゃんのことが好きなんだ!」

必死な顔で真っ直ぐ私の目を見て話す近藤さん。

「それでこれ、受け取ってくれないか?」

差し出されていた花束にゆっくり手を伸ばしてそれを受け取る。

「こんな私でよければ、よろしくお願いします。」

笑いたいのに涙が止まらない。
そんな私を近藤さんは泣き止むまで優しく頭をなで続けてくれた。




 





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