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5月。高校生の桃谷航平は退屈していた。
航平は中学三年の冬休みまで、航平にとってはついこの間まで、仲間とつるんで深夜の道路を改造したバイクで走っていた。
警察からの摘発で航平が中学校へ入学して間なしに入ったチームはあっけなく解散。
特攻服を着ていれば別のチームの人たちとすぐに喧嘩していたが、揃いの特攻服を脱ぎ、ただの学生服を着ていれば喧嘩を売られることもない。
航平は適当に残りの中学生活を過ごし、偏差値の低い高校へ進学した。私立の高校なので学費が高くつくが、あれだけ手のつけられなかった我が子が暴走族らと手を切り、学校へ行ってくれること自体が嬉しかったらしい航平の親は喜んで学費を払ったのだ。
そして、航平が憧れていた白の特攻服とその人を囲んでいた人たちと同じ高校生になった。

真新しかった制服がからだに馴染みだしたころ、航平はなんともいえない虚無感に襲われていた。
中学の頃は毎日のように喧嘩をしていたし、敵もいた。平和な日本のとある町のほんの片隅の出来事だと理解しているし、そんな毎日が異常だったことは分かってはいたが、平々凡々な高校生活は毎日が退屈だった。

学校の帰り道。航平は自身の通う高校の隣の駅の裏にある、不良の溜まり場になっていると噂のゲームセンターへ足を運んだ。
喧嘩のひとつやふたつでも買いたい。そんな気持ちで航平は店内を見回すが、意外にもそういう人たちはいなかった。
クレーンゲームの美少女フィギュアばかり獲得していくいかにもなオタクに音楽ゲームやプリクラを撮る女子高生ばかりだ。
肩透かしを食らった気になったが、そういう喧嘩を売ってくれそうな人たちが来るまで遊ぶかと、航平はパンチングマシンに百円玉を入れる。独特の電子音が大きく鳴り響き、店内の雑音のひとつになった。
航平は専用のグローブをはめて、振りかぶるように全力で的を殴る。
思っていたよりいい特典がでて鼻を鳴らす。
さてもう一発、と再度現れた的に航平が拳を振り上げた時だった。
「そんな殴り方だと、カウンター食らうよ?」
「え?」
突然話しかけられたことに驚いた航平は盛大に空振りしてしまうと、パンチングマシンからゲームオーバーを告げるどこか腹立たしい電子音が鳴り響いた。
「テメッ…!あれ?」
航平が振り向くとそこには誰もいなかった。
空耳だったかと、航平は再度パンチングマシンに百円玉を入れようとするが、あいにく財布の中にあった小銭は五十円玉しか入っていなかった。
航平は仕方がなく、両替しに店のカウンター横の両替機へ向かう。
航平が両替機に千円札を入れようとした時だった。
「あれ?こーへーくんじゃね?」
「え?」
「ほらやっぱし!こーへーくんじゃん!俺のこと覚えてる?ほら、お前が中1ン時チームに入ってきだ時の副総長!」
「鳥飼サン!」
「チームのこと、聞いたぜ。」
「すみません、俺、チーム守れなくて」
「いいって。元々あのチームは俺らが道楽で作ったチームだったから、本当はあいつに、タケルちゃんに二代目を任せる気は無かったんだ。どうしても二代目をやりたいなら、いざサツにパクられそうになった時は中坊らは全員逃してチーム解散するっつーのが、約束だったからな」
「そんな約束してたんですか」
「それよりなに?お前まさかここに喧嘩でも買いにきた?」
「そんなとこです」
「コラ*お前解散する前にタケルちゃんに言われたろ?真っ当に生きろ、一般人(パンピー)に戻れって」
「なんでそれ知って…」
「この間タケルちゃんから手紙が来たんだわ。もしかすっと、中坊組がここに来るかもしんねーからって」
「やっぱ、お見通しなんっすね。すげーな、タケルさん」
「つってもここにきた奴はお前が一人目なんだけどな」
言うこと聞かない悪い子第一号はこーへーちゃんだったな。と鳥飼は続ける。
航平はバツの悪そうな顔をして俯く。
「あと30分でここの仕事終わっから、そのあと総合格闘技のジムでインストラクターもしてんだわ。退屈してんならさ、俺がインストラクターやってるジムに来ねえ?」
「総合格闘技?鳥飼サン、格闘技とかやってんっすか?」
「ちょうどチームを卒業した時に通い始めたんだわ。一応、アマチュアでは今んとこ無敗なんだぜ?」
「すげぇ…!」
「んじゃ決まりな。ジムにジャージとか貸し出し用のがあるから、ちょっと身体動かしてけよ」



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