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ゲームセンターの裏手側にある、建設会社の入っているビルの2階にジムはあった。
看板には【MMA SPIRIT GYM】と書かれてある。
入ってすぐに航平の目に飛び込んできたものは、金網で囲われた簡易リングとずらりと並んだサンドバッグだった。
サンドバッグのところにはひとりだけ、黒色のグローブをつけて叩いている少年がいる。
「よお彰人!今日もやってんな」
鳥飼が声をかけるとサンドバッグを叩くのをやめた少年が航平らへ視線を向ける。
「鳥飼さん、お疲れさまです。あれその人…」
「ああ、俺の後輩的な?今日は見学させようと思ってさ。たしかコイツ、お前と同い年だぜ」
「そうなんですね。こんにちは」
にこやかに挨拶をしてきた彰人と呼ばれた少年は、格闘技とは縁遠そうな、綺麗な顔をしたジュノンボーイ系の少年だった。
『なんだこのかわいい生き物は』
航平がぼんやりと彰人の顔を見ていると、彰人は微笑んだ。
「どうかした?」
彰人がずいっと航平の顔を覗き込むと、その顔の近さに航平は慌てた。
「いや、別に」
「年上に見えるけど、同い年ってことは高校一年で合ってる?」
「ああ」
「このジム年齢層高いから、同い年の会員が増えて嬉しいな」
「別に、まだ入会するって決めたワケじゃねえよ」
「えーなんで?キミ格闘技とか余裕そうだけど、やっぱり総合格闘技って、怖い?」
彰人は挑戦的な、少し小馬鹿にしたような笑みをしていた。
「ああ?誰が、怖いって?」
「ほらぁ、キミ見た感じヤンキーっぽいし?喧嘩慣れしてるのかなぁ〜なんて思ってたんだけど、そうだよねぇ喧嘩と格闘技は違うし、怖くて、当然だよね?」
「ンだとこの野郎……余裕に決まってんだろうが」
「じゃあ、スパーリングする?」
「上等じゃねえか!てめぇこそ可愛いツラしやがって、人ンこと殴れんのかよアア?」
「え?いいの?やった!同じ体格の人とスパーリングするの初めてだから楽しみだなぁ!」
航平としては喧嘩を売った気でいたが、喧嘩を売られたことに気付いてないのか彰人はニコニコとレガースをつける。
レガースとはスネに着けるクッション性のある防具のことで、アマチュアの試合では着用を義務付けられているものだ。彰人らの所属するジムでもスパーリングをするときは着用を義務付けているのだが、まだ格闘技のルールをあまり知らない航平はその様子を不思議そうに眺めていた。
「あ、ボクシングルールの方がよかった?」
航平のその様子が不服そうに見えたのか、彰人が尋ねた。
「ルール?」
「立ったままパンチだけならボクシングルール、パンチと蹴りも有りならキックボクシングルール、タックルや寝技、パウンド有りなら総合ルールになるんだけど。怖いなら、パンチだけのボクシングルールでもいいよ?」
「ンなの、総合ルールに決まってんだろうが」
「じゃあ、グローブはオープンフィンガーのつけてね。危ないからレガースも。バンテージは持ってないよね?ジムの貸し出しの軍手は臭いから、俺の軍手貸してあげるよ。俺はバンテージあるし」
「お、おう」
あれよあれよとスパーリングをする準備が整っていく。
コワゴワとした指が出るタイプのグローブに、足元を覆うマジックテープで固定するタイプのレガースは非常に動き辛い。
喧嘩のときとは違う。航平は少しでも馴染ませようと体を動かした。




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