ななしはエルザと職人通りを歩いているところだった。
グルグ族との抗争は終結したものの、リザードたちから島を守らなければいけないため、武器の調達に来たというわけだ。
グルグ族の技術を取り入れた武器たちは、目新しいものが多く、ななしは目を輝かせながら練り歩いた。
「このダガーならマナミアにもいいんじゃないかしら」
「そうだね、軽いしぴったりだ」
デザインも女性的だし、と思い、武器職人のおじさんに金貨を渡して武器を受け取る。
職人通りには頑固親父、という人が多かったが、見た目に反して人柄は暖かく、仕事と真摯に向き合う姿がななしは好きだった。
今だって、武器職人のおじさんはにこりと笑って「いいのを選んだね」と言ってくれた。
ななしはにこりと笑い、お礼を言ってその場をあとにする。
防具も買わなきゃ、それより強化の方がいいかな……などと考えながら歩いていると、エルザがある人の前で立ち止まって話し始めた。
見慣れない人だ。しかし、エルザは見知った人のように話している。その顔はどこか複雑そうだったが。
ななしはエルザをぽんと叩き声をかけた。
「なにしてんの? 誰、この人」
「あ、ななし」
エルザは苦笑いしながら「ちょっと昔の知り合いで」と答えた。
ふーん、と返して相手を見ると、そこには少しカタギじゃないような男が立っていた。
見た瞬間、ななしは言葉を失った。
後ろで適当に束ねたであろう髪、背が高く、大きい肩幅、それらが男の無骨さを表していた。
こちらを見ている瞳は鋭く、まるで捕らわれてしまったかのような錯覚に陥る。
指先が熱い。指先だけじゃない、身体全てが、自分のものではないよう。
隣のエルザは不信に思い、ななしの目の前で手を振ってみる。
「おーい、ななし?」
「……素敵……」
「は?」
素っ頓狂な声は、エルザとこの男、どちらだったか。
ななしはハッとして姿勢を正し、恥ずかしそうにもじもじしながら男に声をかけた。まだ、少しだけ顔が熱い。
「あの、お名前は?」
「ああ……ゾラだが……」
ゾラさん! と声を上げながら、両手をぱんと胸の前で嬉しそうに組んだ。
それを見たゾラは一瞬たじろぎ、困った様子を見せる。
それに気付かないななしは、ずいとゾラに近づき、さらに言葉を続ける。
「私ななしっていいます」
「よ、よろしく……」
「ゾラさんは彼女とかいるんですか?」
突然の質問に、ななしを凝視したのはエルザだった。やや顔が青い。
ゾラは妙に積極的なななしに少し引いていたが、気圧されて正直に「いない」と答えた。
ぱあ、と花開いたように笑顔を見せたななしに、少しだけどきりとした。
そんなことはつゆ知らず、ななしはゾラのことをうっとりと見つめる。
エルザはそんな二人を見て呆れた。特にななし。男の趣味が悪いにもほどがある。
悪逆非道な盗賊から足を洗ったものの、この男はかつて自分たちの敵だった男だ。知らないにしても、よりによって、という思いが強かった。
エルザはななしの肩を掴み、自分の方を向かせようとした。
しかしななしの力も強く、ゾラから全く目を離そうとしない。
「ほら、帰るよななし!」
「ゾラさん、毎日ここにいますか?」
「ななし!」
「まあ、そうだな。仕事だし……」
「じゃあ、じゃあ明日!」
明日また来ます! と言った言葉は、すでに小さくなっていた。エルザにずるずると引っ張られながら、帰っていったからだ。
ゾラは、緊張とは別の胸の高鳴りを感じていた。あんなに熱烈なアタックをされたのは初めてだった。それも、若い子に。
自分をうっとりと見つめる瞳を思い出す。なんとも甘美で、恋している瞳だった。
口を手で多いながら、「参ったな」とつぶやいたが、誰に聞かれるわけでもなく、夕焼けに吸い込まれていった。
「また明日」。という言葉を思い出して、またどきりとした。
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