夜に巣食う魔物
熱い。酷く熱を孕んだ吐息が少女の耳を擽る。
布団に横たわる身体は背後から大きな男にすっぽりと包み込まれ、蔓のように絡み付く腕は今や薄手のパジャマの中に滑り込んで肉付きの薄い胸を荒々しく弄っている。
そして何よりも熱を持っている塊が、下着を剥がれて露わになっている細い脚の付け根の間に割り入って抽送運動を続けていた。いつの間にか粘着質な水音がくちゅ、くちゅ、と響き始めている事に気付くと、少女の身体が熱を帯び始める。
「…ユウリ、…っ…」
昂りの限界が近くなると、男は必ず少女の名を呼んだ。
初めはか細い身体の反応を探るように恐る恐る触れていた手が、次第にその髪に、頬に、首筋に、滑らかな肌の感触を求めて這い回り、今や大胆にも胸の突起を摘んでは優しく引っ掻いて官能的な刺激を与えてくる。それでも、少女が声を漏らす事は許されない。吐息一つ乱れただけで、激しく打ち付けられていた腰の動きがピタリと止まってしまうからだ。
互いの身体が密着しているのだから、軽く身動きする程度でも寝息を乱すには十分というもの。それが下着を足元までずり下ろされ、熱く硬い塊が太ももの間に食い込んでくれば目が覚めない方がおかしいだろう。それでも少女は一貫して寝たふりを続け、男もまた性急な動きを止めなかった。
これが習慣となったのはいつの頃からだっただろうか。
初めはただ仲の良い兄妹のように、同じ布団で眠っていただけだった。話の流れで毎晩ホテルかテントで寝泊まりする根無し草だと告げたところ、年頃の少女としての危機感が足りない、と少しばかりの説教の後に、男の自宅へと誘われたのだ。
警戒心がなかったかと言えば嘘になる。男の視線が時折自分の身体を舐め尽くすような、得体も知れない不穏な感覚を含んでいたことに気付かないほど子供ではない。だが、それでも少女はその提案を受け入れた。憧れとはまた少し違う、淡く胸を焦がすような心を満たしたかった。ただ傍に居たい───そう思ったから。
一日目には枕を並べて互いの冒険譚を語り合い、二日目の夜は空が白むまでトランプやゲームをして遊んだ。三日目は買い込んだお菓子を広げて映画鑑賞、四日目は孵化寸前の卵を見守って二人でそわそわと落ち着かなかったはずが、いつの間にかどちらともなく寝息を立てて朝を迎えた。
毎日夜が楽しみだった。兄という存在に仄かな憧れを抱いていても、少女には友人たちのように血の繋がりを持った頼れる相棒はいない。それがようやくこうして巡り会えたのだ、嬉しくて誇らしくて仕方なかった。
だからこそ、初めて男の手が肌に触れた時、心の内に広がったのは恐怖よりも失望に近い感情。「起きてるか」と問い掛ける声には熱がこもっていた。こんな声、知らない。実の兄のように慕う彼の声を巧みに操り、自分の身体を弄る背後の男は、さながら夜の闇に巣食う魔物だった。
人に取り憑く悪いものは、その存在に気付かれた瞬間に人と入れ替わってしまうのだと、昔どこかで聞いたことがある。子供騙しの物語だったかも知れない。けれど、今も荒々しく腰を打ち付けてくる男の声は、何かを堪えるような苦しげな吐息も混じらせながら少女の名を呼んでいて。ユウリ、ユウリ、と繰り返すその声にひとたび反応を示せば、途端に魔物は彼の身体を乗っ取ってしまうのではないか。そんな不安が身体を支配して、ただ息を殺して耐えることを決めたのだ。
身体に巻き付いた腕に一層力が込められ、痛いほどに抱締められた瞬間、太ももの間に熱い液体が溢れてきたのが分かる。ああ、やっと終わった。今日も魔物の手から彼を守りきれたのだ。緊張感が解けて身体に安堵が広がる頃には、男の荒い呼吸も収まっていく。このままいつものように服を着せられて、何事もなかったかのように朝を迎えよう。それで良い。朝になれば、また優しい笑顔を浮かべる彼に会えるのだから。
───ところが、今日は何かが違った。魔物の手は胸からへその下までするすると滑り降りていき、粘着質な液体を指先に絡めて少女の股の間へと侵入していく。予想と違う行動に思わず震えそうになる身体に必死に固くさせ、小さな声も漏らすまいと下唇を噛み締めた少女の目には恐怖心から涙の膜が張り始めた。
「…、濡れてんじゃん」
小さく囁く男の声はかろうじて少女の耳に届いたものの、その意味はよく分からない。先ほどまで熱い塊が当たっていた割れ目に固い指先が触れ、粘液を塗り付けながらくちゅ、くちゅ、と擦り始める。肉芽をコリ、と捏ねられると、全身に痺れるような刺激が走って堪らず肩が跳ねてしまった。
気付かれただろうか、そう思ったものの男の動きは止まらない。人差指の腹で丹念に肉芽を捏ね回しながら、中指が未熟な膣口の入り口を探っている。暗い室内には粘着質な水音と、再び熱を帯び始めた男の呼吸音だけが響いていた。
まだ誰も侵入したことのない、固く閉ざした身体の中心が意思とは無関係に疼いて仕方ない。下半身だけ別の生き物になってしまったようだ。膣口に添えられた指先が少しずつ、慎重に膣の中へと挿入ってくるのが分かった。爪の生え際まで埋まったかと思えばゆっくりと出し入れを繰り返しながら第二関節まで差し込まれ、男の指の存在感を強く感じる。
噛み締めた唇には力を込め過ぎたせいか血が滲んで、鉄臭い味が舌の上に広がろうとも少女は息を殺し続けた。自分でも触れたことのない身体の内側が、男の手によって丹念に解されている感覚。その刺激は全身を火照らせ、未知の快感となって少女の思考回路を鈍らせる。もう、いっそのこと全て投げ出してこの身を委ねてしまおうか。彼と二人、どこまでも蕩けるようなこの感覚のなかに墜ちてゆきたい。
どうやら魔物に取り憑かれたのは彼だけではなかったようだ。少女がそう気付いた瞬間、肉芽を強く押し潰されるような刺激とともに強烈な快感が全身を駆け巡った。
「…ユウリ、なあ、今イっただろ?中がすげえ締まってる」
起きていると気付いている。でも、その問い掛けは男自身のものなのか、それとも魔物の甘い誘惑なのか───少女にはまだ分からなかった。男の言葉通り、指に喰らい付いて離れない膣壁の痙攣がようやく収まると、再び肉の襞を優しく擦る動きが始まる。このまま寝たふりを続ければ、この快楽に溺れ続けられるのだろうか。
まだ夜は明けない。魔物はまだ、そこにいる。