とある犯罪者の独白


捜査資料 NO.22731

少女誘拐監禁及びポケモン密輸入容疑で捜査中の元ナックルシティジムリーダー・キバナの筆跡と思われる日記を宝物庫で発見。
依然行方不明の少女、ユウリを誘拐する際の動機、また監禁中の観察記録と思われる独白が綴られている。
以下は手掛かりになると思われる頁の一部抜粋である。確認されたし。
持ち出し厳禁。




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10月12日 晴れ

今日も俺とユウリはカメラに追い掛け回された。
彼女を追う目は日に日に増えている。
若くして地元を飛び出し、持ち前の向上心と天性の素質でその頭角を表した彼女は今や無敗のチャンピオンを倒してこの地に君臨する女王だ。誰もが彼女に憧れて、その一挙一動に注目する。
少しでも画面に映れば高視聴率が約束される。だからテレビクルーは彼女を一瞬足りとも逃そうとはしない。
可哀想に。何も出来ない自分が歯痒くて仕方なかった。



10月19日 晴れ

ユウリを取り巻く群衆の目は、もはや彼女にとっての牢獄だ。
幼い子供達は彼女を通して憧れのチャンピオン街道を進み、大人は羨望と嫉妬が入り乱れる視線を絶えず向けている。
抱き締めて耳を塞いでやると、小さな体を震わせてユウリは泣いた。同じ牢獄であっても、せめて束の間、俺の腕の中に閉じ込めてしまおう。彼女がただの子供に戻れるように。



10月25日 雨

どこか遠くに行きたい、とユウリが呟いた。
その目は俺を見ているのに、彼女の視界が捉えているものは何か別のものだと感じた。何も返せずにいると、遠くに行きたい、と譫言のように繰り返す。
女王という地位の楔に穿たれて、この地から離れる事も出来ない彼女。その姿はまるで、鳥籠の中で飛び方を忘れた小鳥のようだった。



10月30日 雨

宝物庫には様々な文献が保管されている。
ガラルの歴史は勿論のこと、俺がまだ見た事もない地方に関する伝承まで。その中に一つ、気になるものを見つけた。その地方に伝わる、三匹のポケモンが持つ能力を象った神話の一部のようだ。

「そのポケモンを見た者
 一瞬にして 記憶がなくなり
 帰ることが できなくなる

 そのポケモンに触れた者
 3日にして 感情がなくなる

 そのポケモンを傷付けた者
 7日にして 動けなくなり
 なにもできなくなる」

これだ、と思った。
彼女に必要なものを、やっと見付けた。



11月5日 晴れ

今日、業者から例のものを受け取った。
厳重保管と注意事項を強いられたが、正直あまり覚えていない。
ただ、業者の男が繰り返し言っていたのは「三つの能力のう
ち一つでも関与してしまった者は、一生涯その呪いの連鎖から逃れることは出来ない」という事。
だから何だ。俺にとっては今この現実が呪いそのものだ。
彼女を苦しめる世界。そこから救い出してやろう。



11月12日 大雨

ユウリに説明してやると、彼女はとても嬉しそうに笑っていた。
その目には何も映っていない。彼女はもう、この世界で生きる事をやめた壊れた魂の容れ物だ。
見せて、と促されるままユウリの前に持って行ってやると、一瞬でその体が崩折れた。
最後に聞いた「ありがとう」という声が、今も頭から離れない。



11月20日 晴れ

記憶を失くしたユウリは、年相応の幼い少女に還った。
最初は少し警戒されていたが、今は俺が用意してやった本を読んだり、ぬいぐるみを友達のように扱って毎日を穏やかに過ごしている。
本音としては四六時中、傍にいてやりたい。だが、そうもいかないのが俺の生きる現実だ。
彼女が眠っている間、スマホロトムで情報収集すると、俺とユウリの捜索部隊が派遣されたというニュースが流れていた。建前上は行方不明扱い。だが、それも長くは続かないだろう。事件性を考慮して本格的に警察が動き出すのは時間の問題だ。何とか対策を練らなければ。



11月24日

ユウリを外に出す訳にはいかない。そのために話した偽りの脅しはよく効いているようで、彼女がこの洋館から出たことはまだ一度もない。
食料や生活用品、ユウリの退屈な時間を紛らわす玩具を手に入れるための買い物は日に日に困難になってきている。世間では四六時中俺たちに関するニュースが流れ、俺のように目立つ容姿をしていれば自然と人の目を引いてしまうからだ。
朝一番に出掛けても、帰る頃にはとっくに日が暮れている。今日もポケモン達に見張りを頼んで出掛けたが、帰ってユウリの姿を見るまでは常に不安に押し潰されそうだった。
そんな俺の気も知らずに屈託のない笑顔を見せる彼女が少し憎らしくて、それ以上にどうしようもないくらい愛おしかった。



11月28日 曇り

久し振りにユウリを喜ばせられるものが手に入った。
彼女が女王になる前に、二人でよく足を運んだカフェの露店販売があったのだ。店に入るのは人の目が多すぎて危険だったが、これなら手早く買ってすぐに離れられる。
大げさなほどの変装に違和感を持たれる前に露店で出されているクッキーやケーキをありったけ買って帰ると、ユウリは目を輝かせて「お店やさんごっこがしたい」と強請った。
俺が店員、ユウリは買い物客。世間の喧騒も知らずに楽しそうに遊ぶ彼女が選んだのは、昔よく好んで食べていたものだった。
記憶がなくなっても、体が覚えている好みは変わらないものなのか。思わず「お前が好きなものは変わらないな」と言うと、彼女は不思議そうな顔で俺を見ていた。

なあ、誰か教えてくれよ。俺がした事は、本当に正しかったのか?



12月4日 雨

ただでさえ寒い冬に雨が降ると、空気は肌を突き刺すような冷気を孕む。
ユウリが風邪を引いたら大変だ。暖炉に火を焚いて部屋を暖かくすると、その温もりが心地良いのか、彼女はソファの上で小さく丸まって眠っていた。
随分と長い昼寝をしてしまったせいで、夜は目が冴えてしまっているかもしれない。そう思い、夜の帳が降りてからベッドに潜り込んだユウリの様子を見に行くと、予想に反して規則的な寝息が聞こえてきた。
この小さな頭から、記憶が消えたのは俺のせいだ。彼女は今、幸せだろうか。俺の頭の片隅には、小さく震えて泣いているユウリの幻が今もずっと存在している。

手を差し伸べたつもりだった。どこか遠くへ、と嘆く彼女を救い出したつもりだったんだ。
ごめんな、と囁いた声は彼女の耳には届かなかっただろう。それでも良かった。これは俺自身への戒めだ。



12月12日 雨

昨日、とうとうこの付近まで人がやってきた。
考える余裕なんて、なかったんだ。気付けば外に飛び出していて、目の前にいた男達がフライゴンの吐く炎の中に飲まれていくのをただ見ていた。
人里離れたこの場所に、理由もなく訪れる人間はいないだろう。現に、男達が自分の名前を呼ぶ声をユウリは聞いていたらしい。俺の苦しい言い訳でも彼女は納得したようだが、いつまで誤魔化しきれるか分からない。
それと一つ、気になる事があった。森の奥、木立の間に浮かんだ二つの光。あれは一体何なのか。気付きたくなかった。気付いてはいけないと、そう思った。


12月13日 大雨

炎が燃やした灰の残骸を洗い流すように、土砂降りの雨が続いている。
外には出れなかった。雨のせいじゃない。あの二つの光が、まだそこにいるからだ。
ユウリは俺が傍にいるのが嬉しいようで、膝の上で俺に抱き着きながら「何かお話してください」と強請った。
俺も話したかったんだ。誰かに、聞いてもらいたかった。自分の中に抱え込んでいた秘密をおとぎ話のように語ってやると、女王はうっとりとした表情で聞き入っていた。
「すてきなお話ですね」言う彼女の笑顔で、少しだけ罪悪感が拭われた気がした。


12月20日 晴れ

もう逃げるしかない。そう悟った。
業者の話にもっと耳を傾ければ良かった。いや、後悔しても遅いのは分かっている。
ユウリを連れて、どこか遠くに行こう。誰も知らない遥か遠くの地へ。もう誰にも見付からない、邪魔するものなど何もない二人だけの城を築くんだ。


12月24日

ユウリが待っている。
早く、早く帰ろう。
心細くて泣いているかも知れない。

もうすぐ帰るからな。大丈夫だ。



12月

仕方なかった。
奴らに追われていたんだ。

段々と感情の起伏がなくなってきた。
動けなくなる前に、はやく。


 が 9にち

も うご なく  てい る
ユ リ たす て


あ  い して る




△$つ#>! め

お  い で




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発見当時、日記に付いていた指紋は容疑者の物のみ。
また、宝物庫には踏み入られた形跡もなく厳重な警備体制が敷かれていたにも関わらず如何様な方法でこの日記が置かれていたのかも未だ不明である。
現時点で被害者・容疑者両名の安否は確認されていない。
引き続き捜査の続行を求む。