テスト
「キバナさん、次はいつキャンプに付き合ってくれるんですか?」
「お前はまーた言ってんのかよ。次は次はって、キャンプなら一昨日したばっかじゃねえか」
「もう一昨日も前ですよ!じゃあ明日は?明後日は?」
「あのなぁ、大人は忙しいの。オレ様はジムのチャレンジャーの相手もしねえとなんねえし、色々面倒くせえ報告もあるんだって」
お子様は気楽で良いよなあ、そう言って笑いながら彼は私の頭をくしゃくしゃと無造作に撫で回す。この人は、いつもそうだ。事あるごとに私を子供扱いして、からかうだけからかうと楽しそうに笑いながら軽く去なすだけ。
一昨日はワイルドエリアでキャンプ。昨日は一緒に宝物庫の資料の整理。そして今日はバトルカフェでお茶会。忙しい、と言いながらも彼は必ず時間に都合をつけて毎日会う時間を作ってくれている。だからこそワガママばかりも言っていられないのは分かっているけれど。思わずぶすっとふてくされて椅子の背もたれに寄り掛かると、キバナさんは愉快げに笑いながらスマホロトムを向けてくる。撮られる、と反射的に身を竦めるよりも先に響いたシャッター音で間に合わなかった事を悟った。
「…今の絶対変な顔してたでしょ。消してください」
「平気平気、変な顔なんかしてねえよ」
「絶対してました!やだ!消して!」
「あーはいはい、良いから座ってろって」
声を荒げて不意打ちでスマホに手を伸ばしてみても、それすら分かりきっているかのように間一髪で避けられる。私で遊んでいるんだ。ずるい。あーあ。
思わず黙り込んでもう一度ふてくされた顔をすると、彼はお決まりの流れで私の髪を優しく撫でた。こういう時のキバナさんは、ほんの少しだけ嫌いだ。頭を包みこむような大きな手も、私の反応なんてお見通しと言わんばかりの得意げな笑顔も、二人の間にある決して縮まらない"年齢"という距離を強調しているようで。…嫌いだ。
───ピロン、ピロン
不意に通知音を鳴らすスマホロトムに目を向けると、音の出所はキバナさんが所持している方だ。
「もう子供扱いはやめてください!」
「ただの子供じゃねえって、お子様扱いだよ」
「意味はどっちも同じです!」
未遂で終わった筈だった。
お気に入りのワンピースは引き裂かれ、地面に無造作に投げ捨てられた鞄からはポケモン達のきずぐすりや拾い集めたきのみが溢れてそこら中に転がっている。身体の震えは止まらないし、泣き叫んだせいか鈍く痛む頭の回転は酷く遅い。
それでも、未遂だったのだ。彼が助けに来てくれたのだから。
「……キバナ、さ……」
声が掠れて上手く喋れない。それでももう一度、喉を振り絞って声を掛けた。聞こえていない筈はない、こんなにすぐ傍に、すぐ目の前に彼は居る。いつだって、私が名を呼べば嬉しそうに笑って振り向いてくれた。どんなに遠くに居たって、私の声に気付いてくれた。それなのに。それなのに、どうして。
まるで私の存在に気付いていないように、すぐ目の前で、彼は私を襲った暴漢に繰り返し拳を振り下ろしている。
「キバナさ、…キバナさん…!もう…!」
何度目かも分からない制止の言葉も、やはり彼には届かない。
私をいとも容易く組み敷いて乱暴しようとした大きな男の人の体が、それ以上に大きな彼の体の下で今はもうピクリとも動かなくなっている。ひゅう、ひゅう、と聞こえる苦しげな呼吸だけが、かろうじて男の人が生きているという証拠だ。
けれど、このまま彼の拳が止まらなければそれすら無くなってしまうだろう。馬乗りになった状態で、男の人をただ機械的に殴り付ける彼の腕が再び振り上げられた瞬間、私は思わず叫んでいた。
「だめ、やめて…!それ以上したら…死んじゃう…!」
その言葉に彼の腕が宙に浮いたままピタリと止まる。
分かってくれたのだろうか。やっと声が届いたのだろうか。そのまま此方を振り返るその顔は返り血を浴びて所々が赤く染まって、心なしか呼吸も浅い。暗い路地裏で差し込む光すらないというのに、やけにギラついて見える浅葱色の瞳は驚く程に冷え切っていて。
「当たり前だろ。こっちは殺す気でやってんだからよ」
そう呟く声は、地の底から響くように低く抑揚のないもの。
嗚呼───今、目の前にいるのは私の知っている彼ではないのだ。大きくて、強くて、いつも優しさで包み込んでくれるキバナさんじゃない。私が今見ているのは、きっと、彼の皮を被った残虐で恐ろしい獣なんだ。キバナさんじゃない。キバナさんなんかじゃない。
逃げなくちゃ。咄嗟に本能が警鐘を鳴らし始める。早く、本物の彼の所に行かないと。助けて、キバナさん、助けて───地面に尻餅を着いたままじりじりと後退さると、不意に彼が笑い声を上げた。
「キバナさん助けて、か…。だから助けに来てんだろ?」
心の叫びが漏れ出ていたのだろうか。彼を求める私の言葉にクックッと喉を鳴らして笑っている。
こんな笑い方、知らない。屈託のない笑みも、好戦的に笑う彼もたくさん見てきたつもりだ。でも、こんな───こんな、怖気立つような笑い方をする彼は知らない。知りたくない。いやだ、怖い、助けて。
「いやっ…キバナさん、キバナさん…っ!助けて…!」
「どこの"キバナさん"に助け求めてんだよ、なあ?」
震える足を奮い立たせて駆け出そうとした矢先、不意に体に巻きついて来た腕が私の動きを封じ込めた。背後に彼の温もりを感じる。髪をくすぐる吐息が熱い。ユウリ、と私の名を呼ぶ声はいつものように酷く優しげで、さっきまでの恐ろしさなんて微塵もなくて。
ああ、彼はやっぱり私の大好きなキバナさんだ。いつもいつでも守ってくれる、優しいキバナさんなんだ。たった一言で私の不安と恐怖を拭い去ってくれる彼の存在の大きさに思わず熱い雫が頬を伝い落ちたその時。
「ユウリは本当に優しいなあ。犯そうとした奴まで庇ってやるんだから」
「…キバナさ、…」
「今まで大事に大事に守ってやって来た"初めて"が訳分かんねえ奴に掻っ攫われるなんて俺は許せねえんだよ」
「待、…っ、苦し…っ…」
「もう分かったんだよ。いくら守ってやっても、こうやって一瞬で知らねえ奴に摘まれちまうんだ」
「離し、て…っ!いたぃ…!」
「だったらもう守る必要もねえよな。俺がこの手で手折ってやる」
そう耳元で囁かれて、私の体は竦み上がる恐怖に飲み込まれた。動けない。逃げられない。容赦ない抱擁から、逃れる術は、もう───
▼ここから先はR18展開です
「…ゃだ、やだぁっ…!も、やだよぉ…っ…!」
何これ、全然気持ち良くなんかない。痛い。苦しい。早く抜いて。そう願えば願うほど、彼の熱が体の奥に入り込んで来てしまう。
性行為に関して、知識がないと言えば嘘になる。でも、私の頭の中にあったそれは、大好きな人とあったかくて心地良い場所で目一杯優しさを感じながら愛に包まれる時間。こんな薄汚れた路地裏で、踏み台の上に立たされて、後ろから乱暴に貫かれて。こんなの、私───
「…ああ、キッツ…」
「ぃやあっ、やだ…っ…ぅあっ…ぉかあさ…っ…」
今まで、どんなに辛くても挫けそうになっても、一度も呼ばないようにしていた。私を包み込んでくれる存在、大きくて暖かい頼れる場所、キバナさんを見付けたから。でも、今はその彼に身体の中心を穿たれている。思わず母に助けを求める私の腰を掴み、彼の律動が早まっていく。
ガクガクと揺さぶられるまま、ただ泣き叫ぶ事しか出来ない。奥深くまで突き上げられて声にならない悲鳴を上げると、彼の動きが止まったと同時にお腹の中に熱い何かが注がれていくのが分かった。
「っ…あー…ユウリん中、最っ高…」
「…ぐすっ…も、やだ…ごめんなさ、…っ許して…っ」
何に許しを乞うているのか、自分でも分からない。それでも何かに縋るように何度もごめんなさい、と繰り返しても、この絶望は終わりを迎える気配はなかった。
私を貫く楔は未だにお腹の中で存在を主張したままだ。震える足はもう自分の力で立って居られる力も残っていない。彼に後ろから腰を掴まれたまま支えられているだけで、まるで磔にされている状態だった。思わず鼻をすすりながら止まらない涙をもう一筋流すと、不意に背後から優しい声が降ってくる。
「…ああ、ごめんな、先に俺だけ突っ走っちまったな。ユウリもちゃーんと気持ち良くなろうな」
「ぇ、ぁ…?……っっっぁあっ───?!」
急激に身体中を走り抜けるような衝撃。それは下腹の、両脚の付け根から痺れるようにせり上がってきて。思わず下を覗き込むと、彼の手が、指が、私のソコを弄っている。
「ぁっ!やっ!なにこれっ…なにこれぇ…っ?!」
「気持ち良いなあ?あー、すっげ…めちゃくちゃヒクヒクしてきた」
「んーっ!!やらっ、ぁあ…っ!!っゃあぁ…っ!!」
溢れてくる体液を塗り付けられているのか、ぬるぬるとした感触が結合部の上の突起のような部分を執拗に擦り上げて、その度にお腹の中が疼いてたまらない。訳が分からない感覚にいやいやと首を振っても指の動きは止まらず、そのまま再び腰が打ち付けられ始めて。お腹の奥を抉られる度に苦しくて仕方がないのに、それと同時に身体中が痺れるような電流が駆け巡る。
「ここはな、ユウリ、女の体が一番喜ぶ所なんだぜ。ユウリも俺に突々かれてもう立派な"女"に仕上がったんだ」
「ひっ…!ひぁあ…っ!やっ!やぁー…っ!!」
信じたくない。でも、下腹部が痙攣し始めて頭の中が破裂しそうな程に熱くなっている。気付けば彼の動きは再び激しさを増し始め、自分の身体が壊れてしまうのではないかと思う程に荒々しく突き上げられて私はただ腰を掴まれたままガクガクと揺さ振られるしかなかった。
段々と何かが込み上げてくるのが分かる。大きく揺蕩う波のような何か。それに呑み込まれないように必死に叫び声を上げていると、彼は荒く乱れた呼吸の合間に心底嬉しそうに笑った。
「我慢なんかすんなよ、ほら、素直になれ」
次の瞬間、今まで以上に勢い良く奥に打ち付けられた燃えるような塊が、私の頭の中を爆ぜさせた。目の前が真っ白になる感覚の後にお腹の中が熱い滴で満たされていくのが分かる。
余りにも強い刺激で朦朧とする意識の中、背後から降ってくる彼の声はとても穏やかで、多幸感に満ちていた。
「ずっと俺が守って来たんだ。摘む権利も咲かす権利も、他の誰にも渡さねえ」
私の絶望はまだ終わらない。
この人の手の中で枯れるまで。