後日談(2/2)

これは後日談になる。
オロチへ想いを告げた翌日、アッカンベーカリーの近くで、私はクラスメートの佐々くんと向かい合っていた。「風邪大丈夫?」と聞かれたけれど、何となく彼は私から何を言われるかわかっているのだろう。どことなく緊張した面持ちに、少し罪悪感が込み上げていた。


「あの、佐々くん…この前の、ことなんだけど」
「ん、わかってるよ。どうせ俺、また振られるんだろ?」


あーあ。悔しい。と言いながら、拗ねたように口を尖らせる佐々くん。ごめん、と頭を下げた。


「謝んなよ。空しくなる」
「うん…ごめん」
「だーから、謝んなって」


がりがりと頭をかいて、佐々くんはため息をついた。
人に気持ちを伝えるのは、とても勇気がいることだ。きっと彼も、大きな勇気をもって私に想いを告げてくれたのだろう。でも、私は応えられなかった。オロチが、好きだったから。
だから、佐々くんに対して申し訳なくて仕方ない。でも、これ以上謝っても、余計に彼を傷つけるだけだ。

本当にごめんね、佐々くん。
でも。


「ありがとう…気持ちは、嬉しかったよ」


私は頭を下げて、笑う。佐々くんも少し驚いたあと、ようやく小さく笑ってくれた。


「…いや。こっちこそありがとな。今の彼氏となんかあったらさ、いつでも言えよ。話くらい聞いてやる」


「友達だろ?」佐々くんのその言葉がとても嬉しくて、もう一度「ありがとう」と伝えたのだった。




「なんかって何だ。何もないに決まってるだろう」
「オロチ…聞いてたの?」
「たまたまだ」


突如聞こえた声に、私は振り向いた。
そこには、むすっとした様子で腕を組むオロチの姿があった。そっぽを向いてしまいそうな勢いだったので、私はその腕をほどいてそっと握る。「今日もお迎えありがとう」と伝えれば、ようやく機嫌も戻ったようだった。2匹の龍が頬擦りしてくる。それに私は頭を撫でて返した。


「帰るぞ、七海」
「うん。帰ろう」


その日の帰り道は、いつもよりいろんなことを話した。オロチは景太にボコボコにされたらしい。「姉ちゃん…泣かしたね?」と凄む彼はグレるりんもビックリなほどの悪い顔だったとか。でも最終的には認めてくれたそうだ。それはやっぱり、私もオロチのことが好きだと、景太に伝えていたからだろう。
…帰ったら、思いっきり甘やかしてあげようと思う。いつもはシスコンで困るくらいだけど、ほんと、できた弟だ。


「七海」


名前を呼ばれて、隣にいるオロチを見やる。彼は少し口をまごつかせてから、そっと手をさしのべてきた。
私もにっこり笑って、その手に手を重ねる。
そういえば、鬼時間だったり、無理矢理繋がれていたのを除いて、彼ときちんと手を繋ぐのは、これが初めてだった。

初めてオロチと喋った日から、どれくらいがたっただろう。いつの間にか一つの季節を越えて、私はこうしてオロチと手を繋ぐようにまでなった。これからも、私は彼とこうして、繋がっていく。好きになったんだから仕方ない、この恋を続けていく。


「ね、オロチ。大好きだよ」
「ああ、俺も、だ」


そしてこの日のことを一生、忘れることはないだろう。
私がおばあちゃんになっても、死んでしまっても、想い続けることを約束したから。

授業で習った短歌のように、ずっと、変わらずに。