神様のいうとおり(3/3)

「それじゃあ、何を売ってくれる?」
「だから、パン…」
「そんなのつまらないよ」


彼はここが夜市ではないことを、初めからわかって言っているのではないだろうか。ニヤニヤしているところをみると、それは、正解のようにも思えた。

厄介な物に好かれたなあと頭を悩ませていると、タイミングよくおばちゃんが帰ってきてくれた。助かったー!これでキュウビを撒けるかも!


「あら、七海ちゃん。お客さん?」
「あ、はい」
「こんばんは。七海がいつもお世話になっております」
「あら?あらあらー?」


しかし、そうは簡単にいかないらしい。

「そういうこと」「七海ちゃんもやるわねえ」とおばちゃんが妙に勘繰ってにやけている。

なぜそんな誤解されるようなことをいうんだこの狐!

さらにおばちゃんは、いらない気をきかせて「もうあがっていいわよー」何て言ってくる始末。
そんな、こんなところで放り出されたら。


「良かったねえ、七海。そしたらこれから一緒に回ろうか」
「んふふ。行ってらっしゃい、七海ちゃん」
「…はい」


もう逃げられないじゃないか。


屋台から出て、キュウビに並ぶ。そっと背中を押されて、慌てておばちゃんへ「お先に失礼します」と頭を下げた。おばちゃんはニコニコ手を振っていた。






「フフフ。いい買い物できたなあ」
「え?」


キュウビは何も買ってないはずだけど。
訝しげに見上げた私に、機嫌よくキュウビは言う。


「七海の時間。しかもタダで。こんなにお買い得なものはないよ」


さあ、どこへ行こうか。
優しく手をひいて、キュウビが目を細める。

そんな言い方、ずるい。


彼の策に落ちたのは、悔しいけれどわかっていた。

でも、あまりにもその顔が優しかったから。今までのことは全て忘れて、キュウビに付き合ってもいいかなあと思う。


だって、今日は妖怪も、神様も、浮き足立つほどの、夏祭りなのだから。





――だけど。


「七海、何が欲しい?」



何でも買ってあげる。

かき氷でもいいし、永遠の命でも、美しさでも、なーんでも。


そういうキュウビはやっぱり少し、恐かった。



※恒川光太郎さん作「夜市」が元ネタです。