ねないこだれだ(1/3)

ふと教科書から目をあげると、机の上の時計は既に夜の9時半を指していた。どうやら集中して、一時間半は勉強していたらしい。ぐっと背伸びをして、椅子の背もたれに背中を預ける。ぼんやり天井を見上げて、ああ、疲れたなあとため息をついた。

私の学校は、3日後に定期テストを控えている。成績に影響の大きいものだから、当然私も、テスト勉強をしなければならなかった。普段ならこの時間まで働いているアッカンベーカリーのバイトも、テストが終わるまでお休みをいただいていた。

勉強するくらいなら、早くバイト、行きたいなあ。

特別働くのが大好きというわけではないが、テストよりは断然バイトのほうがいいに決まっている。

テストは成績に響くが、バイトは給料に響く。来月には欲しいCDが発売されるから、お金をためておきたいのだ。


「あーあー。学校に隕石でも降らないかな」


そしたら、テストも全部なくなるし。

起こりもしない幻想を願ってみるが、ただむなしくなるだけである。それよりもしっかり勉強した方がいいだろう。

「あー」無駄に声を出して、やる気のないやる気を呼び起こす。怠い腕を回してシャーペンを握ると、カチカチと手応えのない音がした。


「うわ。シャー芯なくなった…」


いくら押しても、目当てのものは出てこない。景太は鉛筆を使ってるから芯なんて持っていないだろう。

これは買いに行くしかないな。


「まあいっか。気分転換に買いにいこ」


こんな時間に芯がなくなるなんて、確かについてない。でも、テスト勉強からは逃れられる。仕方ないなあと思いつつも半分はこの夜の外出に浮き足立っていて、私はコートとマフラー、バッグを掴むと、お母さんに一言声をかけて家を出たのだった。