バレンタインの話(1/2)

「ただいま〜」
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帰ってきた!
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景太はきらりと目を光らせると、一気に玄関までダッシュした。「ケータくん!?」「相変わらず七海ちゃんのことになると素早いニャン」と後ろから声が聞こえたような気がしたが、あえて無視だ。
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「姉ちゃん!お帰り!」
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七海の姿を確認して、そしてそのまま、ダイブする。「うっ」と息を詰まらせる声が聞こえたけれど、気にしない。ここまではいつもどおりである。「ケータ、いきなり飛びついたら危ないって何度言ったらわかるの…」姉の七海が呆れながら、こちらを振り返るのもいつもどおりだ。けれど、今日はいつもと違うものが、彼女の手に握られていた。ちらり、とさりげなさを装って彼女の手元に目線を移す。
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「わ、紙袋、くしゃってなったよ…」
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チョコが入っていると思われる、紙袋!よし、用意してくれてる!
緩みそうになる口元を、七海に頭をぐりぐり押し付けることで隠した。
「七海さん、お帰りなさいでうぃす〜」「七海ちゃん、お帰りニャーン」追いついた妖怪たちのお陰もあって、うまく隠せただろう。
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「ただいま!ウィスパー、ジバニャン」
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でも、まだ勝負はこれからだ。
そう、今日は男子にとっての一大イベント、バレンタインデーなのである。
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「姉ちゃん、鞄持つよ、重いでしょ?」
「え?何急に。別にいいよ。ケータより私のほうが力あるんだし」
「いいからいいから!」
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景太は七海から鞄を奪うと、お帰りのハグもそこそこに、リビングへと移動した。もちろん紙袋には触れない。何気なさを装っていた。
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「ケータ、七海ちゃんにもやってるニャン」
「バレンタインですからね」
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ちょっと!姉ちゃんに聞こえるように言わないでよね!
そんな恨みを込めて、ギランとウィスパーを睨む。我が執事は慌てて口にチャックをすると、ジバニャンにも黙るよう促した。
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景太は学校で学んでいた。バレンタインデーというのは、「がっついてはいけない行事」なのだと。「チョコほしい!」「チョコちょうだい!」という男子ほど、かっこ悪いものはないのだ。
そして、ここでウィスパーたちに余計なことを言われると、計画が全て狂ってしまう。
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七海はいつもと違う様子の弟に首をかしげると、わずかに歪んでしまった紙袋を一見して、素直に彼の後を追った。その様子を見て、景太は内心ガッツポーズする。良かった、とりあえずウィスパーたちの会話は聞こえてなかったみたいだ。
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チョコをもらうためのクエスト、第一段階「姉ちゃんがチョコを買ってきたかどうか確認する」クリアである。
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