重なる手のひら(1/2)
※キュウビ=理科の先生表現があります
「お疲れさまでしたー!お先に失礼します」
「お疲れさま…あ!七海ちゃん、待って!」
「はい?何ですか?」
本日もアッカンベーカリーでの仕事を終え、帰宅しようとしたときである。
店長から呼び止められて振り向けば、差し出された2枚の紙切れ…いや、チケットが目に入る。「さくらEXツリー」。今年できたさくらニュータウンの観光スポットだ。
思わず首を傾げた私に、店長はにっこりと笑った。
「偶然手に入ってね。これ、七海ちゃんにあげるわ」
手元にあるチケットをしげしげと見つめながら、私は家に向かって歩いていた。空は暗くなりつつあったが、チケットの文字を読むには苦労しない程である。「さくらEXツリー」と、でかでかと書かれた面を裏返せば。
「…今週の日曜日まで、か」
チケットの裏側に書かれた日付を見て、私はふむ、と顎に手をやった。
今日は金曜日だ。つまりチャンスは明日と明後日の2日しかない。友人に声をかけるにしてもちょっと急すぎるし、彼氏がいるわけでもない(…悲しい)私。このチケットをさらに横流しする訳にもいかないだろう。どうしようかなあ。
「やっぱりケータかな…」
「何が?」
「だから、一緒に行くの…って?!」
そこに、誰かの声が割り込んできた。慌てて振り返れば、ニヤリと笑う妖怪と目が合う。「きゅ、キュウビ?!」声が裏返ってしまうのも仕方がないだろう。だって、急に現れるんだから!
「やあ、七海。バイトの帰りかい?」
「う、うん、そうだけど…どうしてキュウビがここに?」
「たまたまキミが歩いてるのを見つけたからねェ」
ふよふよと浮きながら、キュウビが私に近付いてくる。驚きで固まっている私に気にすることもなく、「それで、どこかに行くのかい?」と手元を覗き混んできた。「さくらEXツリー?」さすがのキュウビも知っていたらしい。
「…あ、うん。バイト先の店長にもらったんだ」
「へェ。あの新しくできたところだね」
「そうそう。今人気の観光スポットなんだよ」
こういうの、キュウビは興味なさそうだけど…意外にも気になるのか、チケットをしげしげと見つめていた。
そういえば、同じクラスのみっちゃんが、来週彼氏と行く予定なんだと言っていたな。やっぱりこういうのは、彼氏とか彼氏とか恋人とかと行くものだよねえ…お年頃だもの。そんな相手がいない私って…。弟しか誘う相手がいない私って…。
「ふうん。面白そうじゃないか。じゃ、明日にしようか」
「は、」
…今何と言いましたか?
「10時にさくらEXツリーの入口で待ち合わせよう」
「え?」
「楽しみだなあ。七海とのデート」
「はい?!」
あれ、いつの間にキュウビと行くことになってる?!しかもデート?!
「じゃあまた明日。遅れないでよね」
「え、ちょ…」
「待って」という言葉を待ってくれず、キュウビはどろんと音をたてて姿を消した。
ポツンと取り残された私。手元のチケットは、いつの間にか一枚だけになっていた。
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