華麗なるスルースキル(1/2)
今日は両親が映画デートをするようで、珍しくバイトが休みの私がお留守番である。なので「悪いけど夕飯は用意してね!」というお茶目なお母さんの言い付けどおり、その準備をしていた。
普段、普通の女子高生である私に、できる料理のレパートリーなんぞ多くない。おまけに夕飯を食べるのは私だけではなく、弟もいるから、ある程度量のあるものでないとならないだろう。そうなれば、メニューはたったひとつ。カレーである。
むしろこれしか作れない。何度も言うが、私は普段、普通の女子高生なのだ。家事はお母さんにおんぶにだっこ。お母さんありがとう。私は今、お母さんのありがたみが身に染みています。
野菜を洗って、ざくざくと切っていく。カレーだから大きさや厚さは気にしない。鍋に油をひいて、ざっと炒めて、煮込んでルーを入れたら完成だ。ちなみに煮込むときにコンソメを入れると美味しいんだよね。私が唯一知っている「隠し味」はこれだ。
おたまでルーをかき混ぜていると、早速いい匂いがしてきた。そしてそのスパイスの香りが、私の食欲をかきたてる。
カレーって何てお手軽なんだろう。もし将来私が一人暮らしを始めたら、おそらくカレーばかりになるなあ。カレーを発明した人、万歳。ありがとう。私は今、お母さんの次にカレーのありがたみを感じている。
「姉ちゃんー!ただいまーー!!!」
お腹すいたなあと思っていたら、玄関から元気な声が響いてきた。ドタドタと足音をたててリビングへとやって来る。
「あ!もしかして、カレー?!」
わが弟景太のお帰りだった。
「うん、そうだよ。お帰り、ケータ」
「えへへ、ただいま!やった、カレーだカレー!」
くるくる踊り始めた景太の後ろから、ウィスパーたちもやってきた。「いい匂いだニャン!」「美味しそうですね〜」ヒクヒク鼻を動かしたジバニャンが足元ですりよる。そしてそこに「ム。カレーか?!」…知らない声が。
「カレーはオレの大好物だブルァ!」
どちら様?
カレー鍋からはっと顔をあげれば、角が2本生えた、やたら体格のいい妖怪がいる。いや、妖怪とはまた妖気が違うような…。思わずおたまを手にしたまま固まっていると、「あ!そうか姉ちゃん破怪は初めてだっけ?!」と景太がいった。
バチッと破怪と呼ばれる彼と目があった。
お見込みの通り、初めての邂逅である。
「う、うん…あの、初めまして…ケータの姉の七海です。どうぞよろしく…」
ここにいるということは、景太と破怪は友達になったのだろう。とりあえず姉として挨拶しようと思い、おたまから手を離したのだが。
「フン。オレはよろしくするつもりはないがな」
まさかの一刀両断だった。
いや、あの、それじゃあなんでここにいるんですかね?
引くつく口元も隠しきれず、そうですか、と気の抜けた返事が出る。景太は景太で「ちょっと破怪!姉ちゃんにその態度許せないんですけど!」とプリプリしていた。「でも破怪と姉ちゃんが仲良くなられても困るけどね!」と付け足した部分は非常に残念だ。「まあた始まったニャン、ケータのシスコン〜」「仕方ないですよ、ケータくんはあれが通常営業ですから〜」という会話が聞こえたが、聞こえなかったことにしよう。
ウィスパーによると、破怪は、なんとあのウバウネの部下だったのだという。つまり敵だった。それだけで十分驚いたのだが、その「敵だった」破怪を友達にしてしまう景太の懐の大きさにもすごく驚いた。まあ、友達を増やすのは良いことだけど、それにしても柔軟な心をお持ちだなあ、と。そしてその懐の広さを、私を取り巻く環境にも回してもらいたいものである。「それは無理でうぃすね〜シスコンはケータくんの通常営業ですから〜」…それ、さっきも聞いたよ。
「えと…とりあえずご飯にしない?」
破怪と景太の関係性も聞いたし、このまま突っ立っているのも、何だろう。「あ、うん!俺お腹すいた!」景太も空腹だったことを思い出したようだ。
「手を洗ってきてね〜…あ、破怪…さんもよろしければ…」
「はーい!」
「フン。破怪で構わん。どうしてもというなら食ってやろう」
ええー、さっき自分でカレーは大好物だっていってたじゃないか。
ははは、という乾いた笑いで、洗面所にいく景太たちを見送る。何か面倒くさいのが友達になったんだな、と思いながらカレーを盛り付けることにしたのだった。
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