始まりの鐘はかくも響き渡り(1/2)

※映画ネタバレです





妖怪ウォッチがなくても、「俺たち」の姿が見える人間がいるらしい。

そんな噂を耳にした「彼」が、持ち前の好奇心に従うのは当然のことだった。
ぱちん、と指を鳴らして、「人間の姿」になる。この部屋に彼を閉じ込めた「張本人」は、ちょうど外出中だから、人間界に行くなら、今がチャンスだろう。

──まあ、こんな結界を抜けるのは容易いけどな

にやり、と口角をあげ、彼は結界を指で弾いた。足を踏み出すと、カツンと靴の音がなったが、気にしない。どうせ誰もこの部屋に近付きはしないのだ。なぜなら彼は感染病─インフルエンザを患っていることになってるから。ただ、万が一「彼の優秀なる部下」が帰ってきたときに備えて、身代わりと結界を張り直す。彼がいなくなったと知れば、部下は「事を早く進めよう」とするだろう。そうなれば、今まで大人しくしてきた意味がなくなってしまう。まだ「準備」は整ってないのだ。


──全く、面倒くさいことになったものだな。


この文句が直接言えるのは、いつになるのやら。彼は一人肩をすくめると、精一杯伸びをした。やはり結界の中にいるというのは、堅苦しい。でもすぐに「自由」という言葉が頭に浮かんで、何だかいつも以上にワクワクした。


「さて、行くか」


妖怪の姿が見える人間とやらに会いに。
あの雑多で、「面白い」人間界へ。

ぱちん、と指の音がなった。
そして次の瞬間には、その部屋には誰もいなくなった。風もないのにふわりとカーテンが揺れていた。