ここは現実



気が付いた時に最初に目に入って来た白い天井。

ゆっくり視界を動かすとほぼ半裸に近い格好でベッドに横たわる私の身体には数箇所に渡って管の通った針が刺さっていた。何かの薬液を流し込んでいるそれは寝起きでぼんやりしていた私の意識を痛覚で叩き起こす。

声にならない叫びをあげて全て引っこ抜くと針で刺された部分がジクジクと熱を持ったように痛む。

あのホテルで意識を失った後、何かされたらしい。

私は膝を抱えた。

ここはどこなのかとかもうどうでもいい。いきなり欧米に飛ばされるし騙されるしなんだかよく分からない薬漬けにされてもう夢なら覚めて欲しい。

仕事終えてコンビニに寄って家でゆっくり過ごそうとしてただけなのに何でこんな目に遭わなければならないのか。心細さと今置かれている現状の恐怖で涙が次第に出てきた。


「もう、やだ‥‥家に帰りたい‥」


グズグズ子供みたいに泣いてる姿はみっともない事この上ないかもしれないけれどこちらはそれどころじゃない。

真っ白でベッドやトイレ以外何もない部屋には私の啜り泣く声しか聞こえない。

そうしていると部屋の前にゆっくり近付いてくる足音が聞こえた。それに私は心臓の音が跳ね上がる。

コツ、コツ、コツ。

どんどんと近付いて私のいる部屋の前で足音は止まった。ドクドクと脈打つ私の心臓の音が脳に直接響いている。

キィ‥‥と扉が開いて私は目をギュッと瞑って身体を抱きしめる様に縮こまった。


怖くて身体が震えているのが自分で分かる。


「ウィルスの変異が見られない生存者を発見」


その言葉に恐る恐る目を開けるとそこには画面上でしか見た事のない存在がいて私はあまりにもビックリして目を丸くした。

ピアーズ・ニヴァンス。

友人に勧められてプレイしたことのあるバイオハザード。

その中でナンバリングタイトル、6の主要キャラクターが今目の前にいる。ゲームの中にしか存在しない人物に目を丸くしていると彼は私から目を逸らした。

「今からあんたをここから救助‥‥の前にとりあえず服を着た方がいいな」

そう言われて自分の格好を思い出した私は手で隠すと部屋を見渡した。着られる物はなかったがベッド用の白いカーテンが掛かっていたのでそれを引っ剥がして身体に巻く。

「隊長。これから要救助者を連れて合流します」

何故ゲームのキャラクターが今目の前にいるのかいよいよ私は狂ってしまったのだろうかと頭を抱える。

「感染者がまだいるかもしれない。出来るだけ俺から離れるなよ」

とにかく今はここから出るのが先決だろうと思った私はここが何処なのかとか何故ゲームのキャラクターが目の前に存在してるのかとか細かい事は後から考える事にした。

そうしてピアーズの背後にぴったりくっ付いて部屋の外に出ると人だったであろう何かが目に入る。それは血と肉片や脳髄が飛び散り身体は酷く損壊していて腸が僅かに飛び出していた。

「‥‥っっ!!」

あまりの生々しさに吐き気を催して蹲るとピアーズがしっかりしろと言った。

「ここを出るまでの辛抱だ」


そう言って差し出されたピアーズの手に触れるとじんわりと温かさを感じる。生きてる人間の温かさだ。

これは本当に現実なのだと思うとまた恐怖で足が震える。

ピアーズをこれ以上困らせる訳にもいかないしここでじっとしていたらいずれ自分もこうなってしまうかもしれない。私は震える身体を心の中で叱咤して立ち上がった。

「‥ごめんなさい。」



‥‥執筆中‥‥