海の見える、少し小高い丘で、傷ついた貴方を抱きしめる。
穏やかな風が海を渡って、貴方の紅い髪を、柔らかく揺らした。
波の音がゆっくりとさざめきあって、貴方の苦しげな呼吸を掻き消す。

やがて、水平線の彼方に約束の船が現れた。
それはぐんぐんと大きくなって、こちらに近づいている。そうして船の帆が風を孕み膨らんでいる様子がはっきりわかった頃。

もう、目を開けることすら叶わない、貴方に代わり、私の目に映る色を、そっと囁いた。


――白き帆の船が、こちらに向かってきます、と。


それは、あなたが想う最愛の女性の、到来の合図だった。

金の髪の、同じ名を持つ貴女。
夫の愛を一身に受け、慈しまれる貴女。

神様、私の何がいけなかったのでしょう。
ただ、叶うのならば、"私"の名前を呼んで、一度で良いから笑いかけて欲しかった。 
ただ……それだけだったのです。
生涯の伴侶として、ただ一人の"私"という女として。












西暦2015年。

貞淑な私(笑)という存在は、盛大な失恋のおかげか何なのか、記憶を持ったまま転生を繰り返し、今生では早、力尽きていた。

初めの転生では、頭がおかしいのだと自分を疑い、記憶を消すことに躍起になり、それでもどうにもならない事に憤りを覚え、何度目かの転生で、この未練たらしい思いを断ち切らない限り、この転生は終わらないのだと諦めた。

諦めた後はかつての私と同じではいられない。
嘆くのも疲れた。
新しい恋をする気にもならない。
そもそも、手酷い失恋の後では恋や愛なんて、恐ろしすぎて、考えただけでも身の毛がよだつのだ。

かつての私はなんと無謀だったのか。
実らないと分かっていながら、いつかを夢見て愛し続けるなど、正気の沙汰ではない。
その代償が今の私なのだから。

とはいえ、時代は進んでいるのだ。
私もいい加減、変わらなくては。
今の時代、女も強くなくては。
――今生の母の口癖だった。

そういうことで、今生の私はキャリアウーマンになる。
仕事命、なんてかっこいいのだろう……結婚が女の幸せなどもはや古い。
時代は私に追いついたのだ。と、思うことにした何回目かの私。
せっかく魔術師のコネを使いまくって、栄誉ある人理継続保障機関フィニス・カルデアに就職を果たしたのだ!(とはいえ、グランドオーダーが発令されて以降、技術部の顧問であるダ・ヴィンチちゃんの助手だが)

今生の私は自由に生きる。
目指すは大出世!
(本音:ここいらで転生にストップをかけたい)

と、思っていたのはつい先日まででした。


たった一つの望みが胸を縛る