(轟)
恥ずかしがるなまえを「一緒に入るって言っただろ?」と言い包め、風呂場で戯れていたのがついさっきまでの話。何もしないつもりだったが、気が付いたら柔らかな胸に触れ、我慢出来なくなって浴槽のふちに腰掛けさせて舌で奉仕し、最後は壁に手をつかせてベッドでした時以上に激しく抱いてしまった……。大分無理をさせてしまったらしく、すっかり腰砕けになったなまえはベッドの上でくったりとしていた。
「体力なくてごめんね……」
眉を下げてへにゃりと笑うなまえ、可愛い。可愛すぎて辛い。会えなかった時間の分、正直朝まで抱き潰したいというのが本心だ。が、決して無理はさせたくない。……いや、さっき風呂場でがっついたのは仕方ないというか、肌に触れたら自然と下半身が反応してしまったというか……。
煩悩を振り払ってから自分も布団の中に入り込み、なまえを優しく引き寄せる。自分と同じ匂いを纏う彼女がどうしようもなく愛おしく思えて、頬に軽く口付けを落とした。小さく身動いだなまえの体を逃げないよう、しっかりと抱き込む。
「なまえは悪くねえよ、餓鬼みたいに盛った俺が悪い」
「……焦凍くんは、ちゃんと満足出来た?」
「ん?あぁ、すげえ満たされてる。……ありがとな」
「……じゃあ、良かった」
うとうとと微睡みながら、なまえは安心したように微笑んだ。段々と喋るスピードがゆっくりになり、瞼は半分閉じかけている。……眠いんだな。
「しょーとくん……」
「ん?……何だ」
「つぎはもっと頑張る、から……またわたしと、えっちしてくれる……?」
「っ、……」
なまえの体温を感じながらいい感じに微睡んでいたのに、その言葉で頭が覚醒してしまった。舌ったらずな口調で「えっちしてくれる?」ってなんだ……!?人には見せられない顔をしている自信がある。……可愛すぎだ、なまえ。心の中で呟いて、なまえを抱き締める腕に少し力を込めた。
「何も頑張らなくても、いくらでもこうしてやる」
「ん……でも、もっと体力つけないと、いっぱいできない……」
「……そう思ってくれんのはすげえ嬉しい。けど、俺はなまえにこうやって触れるだけで満たされてるし……まァ、そう言いながらも時々ああやって我慢出来なくなるかもしれねえけど……」
「……しょーと、くん……」
「兎に角、なまえはそのままでいい。何も変わらないで、俺の隣にいてくれ」
「……」
「……なまえ……好きだ。
…………って、寝ちまったのか」
腕の中ですやすやと健やかな寝息を立てるなまえに苦笑をひとつ。「おやすみ」と額に口付けて、俺もそっと目を閉じた。
***
−−−なまえとの交際は順調に続いていた。空いた時間でデートを繰り返し、休みの日はホテルか俺の家に泊まり、二人きりでゆったりとした時間を過ごす。最初は家に来る度に緊張していたなまえも、最近は大分慣れてきたようだ。
ソファで寛ぐなまえの横に腰掛け、買ってきた雑誌を覗き込む。
「ここのお蕎麦、評判良いみたいだよ」
「へえ……気になるな」
「そんなに遠くないし、食べに行きたいね」
「次の休みにでも行ってみるか」
「凄く楽しみ!」と笑い掛けてくるなまえの肩に頭を預け「そうだな」と返事をする。……今日はこの後、帰っちまうんだよな。こうしてなまえと過ごす穏やかな時間があまりにも暖かくて、離れ難くなる。……此処で一緒に暮らせたらどれだけいいだろう。そうしたら時間を気にすることなく一緒に居られるのにな。……とは言え、俺の都合で決められる事では無い。俺に俺の生活があるように、なまえにもなまえの生活があるのだ。
……ああ、そうだ。
「なまえに渡したいモンがあるんだ」
「?渡したいもの?」
「ああ…………っと、あった。……これ、なまえにやる」
「っ、これって……」
「合鍵。これでいつでも好きな時に来れるだろ?」
「わ、わたしが貰っちゃっていいの……!?こんな大事なもの……」
「ああ……貰ってくれ」
呆然と掌に乗せた鍵を見つめていたなまえは、俺の顔と鍵を何度か見比べて−−−……それから、ぎゅっと大切そうに鍵を握り締める。
「……ありがとう、焦凍くん。大切にするね……!」
そう言って微笑んだなまえの瞳は、僅かに涙で潤んでいた。
−……なまえが隣にいる、優しくて穏やかな日々。これからも当たり前のように続いていくのだと、この時の俺はすっかり信じ込んでいた。