わたし、みょうじなまえは所謂''ティーンズラブ''と呼ばれるジャンルで活動しているティーンズラブ作家だ。趣味でサイトに投稿していた小説がその当時開催されていた小説コンテストで特別賞に選ばれて、有難い事に書籍化してもらえる事になったのがキッカケ。その後もその時お世話になった出版社さんから何回か本を出して頂いている。……わたしは寝ても覚めてもえっちな小説や漫画を書いたり読み漁っているようなむっつりすけべだ。悲しい事に自覚もある。みょうじなまえ、22歳。処女。大事なことだからもう一回言っておこう。''処女''なのだ。お付き合い経験もゼロ。わたしのエロの知識は昔から大好きだった少女漫画やティーンズラブで得たものが全て。……えっちな小説ばかり書いているけれど、全部妄想。初体験どころか恋人すら出来た事がない拗らせ系女子、それがわたしなのである。
そんなわたしは今、紆余曲折合って出会ったばかりの男性に組み敷かれている。
−−−話は、数日前まで巻き戻る。
その日は新たな本の出版が決まって、出版社に持って行く為にたまたま原稿や自分の小説を持ち歩いていたのだ。家を出る時間が予定よりもギリギリになってしまったから、わたしは小走りで目的地への道を急いでいた。−−−その時だった。曲がり角から飛び出してきた男性と思い切りぶつかってしまったのだ。
「きゃっ……!?」
「ッ、悪りィ。怪我はねえか?」
勢い良く尻餅をついたわたしに手を差し伸べてくれる男性。う、うわあすごい髪の色……しかもイケメン……だと……!?イケメンに耐性を持たない拗らせ系女子のわたしは慌てて掴んだ手を離して立ち上がる。地面に落ちていた鞄を拾い「ごめんなさい!ありがとうございました!」とぺこぺこ頭を下げて猛ダッシュでその場を立ち去った。急いでいたというのもあるし、イケメンとの思わぬエンカウントで動揺していたというのもある。後ろから何かを言っている声が聞こえたけれど、立ち止まるという選択肢はなかった。さらばだイケメン。眼福でしたありがとう。何てしょうもない事を考えながら、出版社に無事到着。原稿を取り出そうとして気が付いた。
− これ、わたしの鞄じゃない!
デザインは似ているけれど、わたしのじゃない。……あまりのショックに担当さんと話した内容が全部頭から抜け落ちてしまった。ああ、この鞄は間違いなくあのイケメンの物だ。ぶつかった時に取り違えてしまったのだ。泣きたい。あの鞄の中身を見られたら死ぬ。だってあの鞄の中に入っているのは、見渡す限りのすけべである。小説も漫画もかなり際どい内容だ。……と、いうかイケメンの鞄どうしよう。何も考えずに持って帰ってきてしまったけれど警察に届ければ良かった。貴重品類は入ってなさそうだけど、きっと困っているだろう。……明日警察に届けよう。何もかもが最悪だ。はあああ、と深い溜め息を吐きながらSNSを開く。通知が一件。お仕事関係の人からかな?軽い気持ちでDMを開いてその内容にぎょっとした。
『今日の昼間、路上でぶつかった男だ。分かるよな?取り違えた鞄を預かっている。アンタも、俺の鞄を預かっていたら返して欲しい。これを見たら連絡をくれ』
そう、あのイケメンからのDMだったのだ……。