「勝手に鞄の中身見て悪かったな、」
「い、いえ。……その、良く見ずに鞄を持って行ってしまったのはわたしですし、お気になさらず……」
「そうか。中に入ってた物を見て連絡させて貰ったんだ。……みょうじさん、俺と同い年なんだな」
め、めちゃくちゃ調べられてるー!?
−−−みょうじなまえ、偶然鞄がチェンジしてしまったお相手、轟さんとカフェに来ています。鞄の中に入っていた原稿や本からわたしのことを調べてわざわざDMから連絡してくれた轟さんは「外で渡すのもアレだろ」とか言って店内に誘って下さった。アレってアレですか。わたしのアレのことですか(困惑)
わたしは全然外での手渡しで良かったんだけどな……!
それはさておき、見れば見るほどイケメンだなあこの人。今は帽子の下に隠れているけれど、普通の人がしていたらトンデモな派手な髪型も轟さんだとあまり気にならない……というかこの髪型めちゃくちゃ見覚えがある気が……いや、気のせい気のせい。大人気ヒーロー、ショートと似た髪型だなあと思ったけど、ショートは今をときめく大人気のヒーローだ。真似をする人もいるよね!うんうん。名前も同じだけどきっと偶然!そうに違いない。というかそう思いたい!
「へ、へえ!轟さん落ち着いてて同い年に見えませんね!というか本当にお手数お掛けしてしまって申し訳ありませんでした!鞄もお互いに無事でしたし、轟さんもお忙しいでしょう?今日はこの辺で……」
「ああ、今日は休みなんだ。気にしないでくれ」
優雅にコーヒーを飲んでいる轟さんに心の中で『轟さんが気にしなくてもわたしが気にするー!』と突っ込む。イケメンと二人きりってだけでも気まずいのに、このイケメンはわたしの原稿をばっちり見ているのである。一刻も早くこの場を去って、自分の記憶からも轟さんの記憶からもこの出来事を消し去りたい。正直心がしんどいです。泣いてもいいですか?
「あ、あは、あはは……貴重な休日をわたしなんかの為に割いて下さって……」
「最近忙しかったんだけど、丁度落ち着いてくれてな。みょうじさんとこうして会う時間を作れて良かった」
「そ、それは、良かったです……?」
「なァ、」
カチャリ。コーヒーを机に置いた轟さんが、こちらをじいと見据えてくる。わあ良く見たらオッドアイ。本当に綺麗な人だなあ。両親も美形なんだろうなー羨ましいなー。イケメンに見つめられてドキドキとうるさい心臓を現実逃避と紅茶を飲むことでやり過ごす。んん、美味しい。
「作品、読んだんだが」
「ッッッ……げほっ、げほっ……!!」
「…………大丈夫か?」
「だ、大丈夫、です……!」
よ、読んだ、だと……!?この人は一体何を言い出すんだ……!轟さんの表情は今日初めて挨拶した時と変わらなくて、考えている事が全く読めない。え、わたしこのイケメンから自分の小説について何か言われるの!?今からここで感想を述べられるの!?む、無理無理無理!お金置いていくからここから逃げてもいいかな?いいよね?そんな事を心中で考えながらも、眉を下げて心配そうにしているイケメン相手に逃げるという行動を取る事は出来なかった……なまえのチキンー!馬鹿!
「……ああ。心配すんな。読んだのはサイトに投稿されてたヤツだから」
「(そういう問題じゃないんだけどなー!天然か!この人天然なのかな!?)」
「何つーか……すげェ刺激的だった。女性って普段からああいうの読んでんのか?」
「ま、まぁ好きな人は多いとは思い……ますよ……?」
「みょうじさんも、やっぱり自分で書いてる位だし好きなのか?」
し、質問攻めだ……!かなりギリギリな質問な気がするんだけど、轟さんの顔は興味津々というか、純粋に疑問に思ってます!みたいな感じで悪気が感じられないから逆にタチが悪い!
「……き、嫌いじゃないです」
「そうか。……成る程な……」
「(成る程って何が!??)」
「みょうじさんは恋人は居るのか?」
「うッ、生まれてこの方恋人なんて出来たことありませんけど何か!?」
あっ。不意に22年彼氏ナシのコンプレックスを刺激されて余計な事まで言ってしまった。でも一度してしまった発言は取り消せない。消えたい。この場から今すぐ。っていうか何で急に恋人が居るかどうかなんて聞いてくるのこの人!?う、うう……辛い……居た堪れない……。恋人を作ったこともないのに厭らしい事ばかり考えてるイタい女だと思われたに違いない……。穴があったら入りたい。切実に。
「何か……悪ィ」
「いえ……こちらこそすみません……」
「でも、それ聞いて分かった」
「へ?な、何がです……?」
「みょうじさんの小説読んでて、リアリティに欠けてんなって思ったんだ」
「えっ」
「恋愛経験が無い所為だな、きっと」
こ、これはしれっと貶されている……!?しかも轟さんの言う事は最近担当さんや読者さんに指摘されている事と全く一緒だった。''リアリティに欠ける''とか''エロがワンパターン''とか……!担当さんにも「みょうじさんは恋人作った方がいいですよ!」「もっと表現の幅が増えますよ!」とか言われるし!……作れるならとっくのとうに作ってるよ!中高一貫の女子校育ちで、今働いてるカフェも女性店員しか居ないようなお店を選んでる拗らせ系女子を舐めないで欲しい。……考えてたら悲しみが増してきた。何でほぼ初対面のイケメンにそんな事指摘されてるんだろう……。
惨めさとか恥ずかしさとか色々な感情がごちゃ混ぜになって、思わずぽろりと目から涙が落ちた。
「っみょうじさん……?」
「こ、恋人が出来た事が無いのがそんなに悪いんですか……!?ええ、どうせわたしの恋愛知識やエロ知識は漫画とか小説から得たものですよ!経験したこと無いんだからリアリティさなんて出るわけないじゃないですかー!う、う〜〜!」
「な……泣くなよ」
「泣きたくもなりますよー!どうやったら出来るんですか恋人なんて……!」
「……出来るだろ、」
「無責任なこと言わないで下さい!じゃあ轟さん恋人になって色々教えてくれるんですか!?」
「ああ、構わない」
「ほらー!無理じゃないですかー!……って、ん?」
「俺で良いなら……みょうじさんの恋人になって色々な事を教えてやりたいと思ってる」
……い、今なんて?