(上鳴)
「お、バクゴー!来たなー!」
「案外早かったなー」
「みょうじのことちゃんと送り届けて来たかー?」
「……一度に喋んな。お前らに心配されなくてもアイツは今頃実家でごろごろしてるだろーよ」
鞄を下ろしながら爆豪が俺の横に腰掛ける。切島が「じゃあ安心だな!流石バクゴーだぜ!」そう言って力強く親指を立てると「何が流石なんだよ、」と呆れた顔で返していた。そのやり取りを何が楽しいのか、瀬呂が「流石バクゴー!」とヘラヘラ笑っている。うへー、これ昔の爆豪相手だったら爆破されてんだろーなー。つーか瀬呂、酔い回んの早えな!まァ俺もいい感じに酔い始めてるし、切島も瀬呂も俺も久々に爆豪を含めた四人で集まれる事に浮かれてんのかも。
店員からおしぼりを受け取って生ビールを注文する爆豪を見る。その横顔はすっかり落ち着いていて、学生時代にクラス一の問題児だったとは思えない。
「何ジロジロ見とんだアホ面」
−−−相変わらず口は悪ィけどな!
注文した爆豪のビールと枝豆が一緒に届いて、広い個室には乾杯の声とともにグラスのぶつかる音が響いた。はー、改めて仕事終わりの酒が体に染み渡る……。
「今日は仕事休みだったのか?」
「いや、午前中に事務所で書類仕事だけ済まして来た」
「爆豪マジで忙しそうだよなー。やっぱ事務所独立してから忙しさ倍増!って感じ?」
「そうでも無い。しなきゃなんねェ事は増えたけど、色々融通効くようになったしな」
「そっかー……みょうじとの時間はちゃんと取れてんの?」
「ああ」
返事をしながらスマホを弄ってた爆豪の口元がふ、と緩む。……何だ?僅かに見えた画面はメッセージアプリのモノだった。ぜっっったいなまえちゃんからじゃん!!!
「爆豪がなまえちゃんから連絡来てニヤニヤしてる……」
「ハ?してねェわ」
「ホント仲良いよなー爆豪とみょうじ。俺、この間ショッピングモールでお前ら見掛けたぜー!」
「マジかよ瀬呂。イチャついてた?」
「良く聞けお前ら……手繋いで歩いてた!」
「ウワーーそんな爆豪見たくない!」
「………オイ」
般若のような顔をした爆豪に酔っ払い共はゲラゲラと笑う。
「爆心地が恋人にはあんな顔してんだってお前のフォロワーは想像もしてないんだろうなー」
「お前らがそれ以上煽ってくんなら俺は今すぐ家に帰る」
「来たばっかなのに寂しい事言うなよバクゴー!俺たちはお前とみょうじが幸せそうなのが自分のことみてえに嬉しいだけだって!」
「そうそう。俺が見た時も、みょうじがすげー楽しそうでさ!……何か、マジで良かったなって思ったよ」
からん、とグラスの中で溶けかけた氷の揺れる音。……そう。卒業したあともみんな心配してる。''なまえちゃん''のこと。かつての''クラスメイト''のこと。さっきまでの雰囲気が嘘かのように、部屋はしんと静まり返っていた。
「……なまえちゃんは相変わらず?病院も行ってんの?」
「ああ。今日が通院日だった」
「そっか……バクゴーもみょうじが病院に行く時は付き添ってんだろ?」
「あいつが気ィ遣って一人で良い、って言うから送り迎えだけしてる。相変わらず異常ナシだとよ」
ぐっと酒を煽った爆豪くんに三人の視線が集まる。顔を上げた爆豪くんは「何つー顔してンだお前ら」と口角をゆるく持ち上げた。
「居ねェところでお前らがしみったれた面してたってアイツは喜ばねーよ」
「そーなんだけどさー……。やっぱ心配なものは心配だよなァ」
「余計な心配しなくてもなまえも受け入れて、今はフツーに働いてンだ。それに馬鹿みたいに元気にしてる。今日も実家に帰る予定じゃなかったら呑み会参加したかったーって煩かったからな」
「マジ!?写真撮ってみょうじに送ろうぜー!」
−ぎゃいぎゃいと騒がしい中、テーブルに置かれたスマホに目がいく。待ち受けはなまえちゃんと二人で写った写真。眩しいくらいの笑顔のなまえちゃんと、仏頂面で顔を寄せた爆豪。2ショットを自分で待ち受けに設定したとは思えないから、きっとこれ、なまえちゃんに設定されたんだろうな。
なまえちゃんの笑顔を守れるのは、この横で仏頂面しながらもしっかりと腰を抱き寄せているこの男だけなのだ。何だかムズムズとした気持ちが込み上げてくる。会いたいなー、なまえちゃんに。
「なァ、今度爆豪ン家行ってもいい!?俺すげーなまえちゃんに会いたくなっちゃった!」
「来んな」
「みょうじの手料理食わせてくれよー!頼むぜ爆豪!」
「俺からも頼む!」
「…………ハァ、なんか手土産持ってこいよ」
「やったー!さっすがバクゴー!」
うぇーい、と向かいに座る切島、瀬呂とハイタッチを交わす。その後もお互いの近況報告だとか、久々に1-Aの同窓会をしたいだとか、そんな話で数時間盛り上がった。爆豪はなまえちゃんと温泉旅行を計画しているらしく「どうせなら皆で行こうぜー!」と提案すると「それも悪かねェな」と笑っていた。
店を出る頃にはすっかり遅い時間になっていた。髪を揺らす風が酒で火照った体を程よく冷やしてくれる。
「あ゛ー、風が気持ちいいわー」
「梅雨明けて良かったよなー。今年は思ったより早くて助かるぜ」
「俺たちは二軒目行くけど、バクゴーは来ねェんだよな?」
「ああ」
「バクゴー気ィ付けて帰れよ」
「みょうじによろしくなー!」
緩く手を持ち上げた爆豪の背中を見送って、残った三人は次の店を探すべく歩き始める。夏の夜。始まってもいないのに漂う祭りのあとのような寂しさが、突然心を襲う季節。「爆豪見てるとさ、」思わず口を開いていた。
「……守らなきゃならないモノがある人間って、ああなるんだなーって思うよな」
「上鳴、今日ずっとそんな事考えてたのかよ」
「や、ずっと考えてたーって訳じゃねーけど……なまえちゃんのこと話す爆豪の顔とか見てっと、なんか……」
「爆豪のヤツ、ナチュラルに惚気てくんだよなあー」
「はは、確かに。みょうじの事話すバクゴーって、別人みてェだよな」
言いたいことはそういうことじゃなかったけれど、きっと皆分かっているんだろう。−二人が幸せならいいんだ。なまえちゃんが笑ってんなら、それを爆豪がこっちが恥ずかしくなるくらい優しい顔で見つめてんなら、それでいい。どうかこれ以上何も変わらず、壊れず、あの二人にとっての当たり前が続きますように。
何も出来ない俺たちは、それを願うことしか出来ない。