狼男の爆豪くんと愛を確かめ合う話(前編・R)




恋人の勝己くんが''狼男''だと知る事になったのは、彼と出会って何度目かの満月の夜だった。月が満ちる夜が近付くと、勝己くんは頑なにわたしの前に姿を見せようとはしない。わたしはどうしても愛する彼の秘密を知りたかった。彼の全部が、知りたかった。


『見る、な、……見るなッ……!!!』歯が、鋭い牙に変わる。獰猛な獣と化した勝己くんに組み敷かれ、わたしは彼の下で息を殺し震えていた。ぐるぐると喉が鳴る音がする。開いた歯の隙間からぽたりぽたりと垂れた粘っこい涎が、頬を伝って流れてゆく。……けれど、体の震えはすぐに治った。怯えるわたしを見下ろす、寂し気な色を宿した紅い瞳と視線がぶつかったからだ。普段の勝己くんと何一つ変わらない色。……ああ、何だ、勝己くんじゃないか。獣耳、牙、鋭い爪。そんなものが何だと言うのか。現に、勝己くんはわたしを傷付けていない。勝手に秘密を暴いて、ビクビクと怯えるわたしの方がよっぽど彼に酷い事をしている。勝己くんの頬にそっと触れると、彼は戸惑いを隠せない様子でわたしの名を呼んだ。


「…………なまえ」
「……怖くないよ」
「ッ、この姿を見て分かっただろ……俺は人じゃねェ!狼と人間の間に産まれた狼人間だ……っただの人間のフリをしてお前をずっと騙してた……!」
「……騙してたんじゃない……わたしの為を思って隠してくれてたんだよね?」
「……いつかは言わなきゃいけない事だと分かってた。ずっと隠し通せる訳がねェって……でも、真実を知ったお前が俺から離れていくと思うと……言えなかった」
「これが、本来の勝己くんの姿なの?」
「そうだ。……満月の夜が近付くと、理性よりも獣の本能が優って抑えが効かなくなる。……悍ましい獣の姿だって事は俺自身が良く分かってる。だから、見せたくなかったンだ」
「…………でも、良く見ると可愛いよ?」
「ッ何、が、……可愛いだ!可愛い訳ねェだろ!?この牙は、いつかお前の喉を喰い千切るかもしれない!俺はこの爪でお前の肌を切り裂いちまうかもしれない……ッ!」
「勝己くんはそんな事しないでしょ?……大丈夫。その牙も、爪も、怖くなんかないよ。……だから……泣かないで」


勝己くんの両頬に手を添えて、目元に唇を寄せる。しょっぱい味。離れない事を伝える為に自分からぎゅっと抱き着くと、背中に回った腕が恐る恐る抱き返してくれた。勝己くん特有の香りがして、脳がじぃんと痺れた。


「怯えたりして、ごめんね」
「……ッ、なまえ……お前は、やっと見つけた俺の運命の番なんだ……俺は……お前にだけは嫌われたくねェ……」
「嫌ったりしないよ。……どんな姿でも、勝己くんは勝己くんだもん」
「なまえ……」


勝己くんは瞳を細めて、わたしの顔をじいっと見つめる。それから、濡れた舌で唇をぺろりと舐め上げた。戯れる様にぺろぺろと何度も舐め上げられ、くすぐったくなって笑うと、勝己くんも嬉しそうに微笑む。


「……俺は、人間じゃねェんだぞ」
「……うん」
「今ならまだ引き返せる。……普通の男と結婚する方がお前にとって、幸せかもしれねェ」
「あのね、わたしは勝己くんが思ってる以上に勝己くんの事が好きだよ?……だから、勝己くんと一緒に生きたい」
「…………」
「あっ、御伽噺みたいに正体がバレたからわたしの元を去るなんて言ったら、どこまでも追いかけてやるんだから!」
「…………本当に、良いのか」
「良いって言ってるでしょ、」


−−−その瞬間、彼の頬をはらりと流れた一筋の涙をわたしはきっと、ずっと忘れる事はないだろう。



勝己くんが隠していた秘密を共有する事で、わたしと勝己くんを隔てる壁は無くなった。同棲を始めて、一年が経って。そして、わたしの苗字は''みょうじ''から''爆豪''に変わった。


そう−−−彼と夫婦になったのだ。



***



降り注ぐキスの雨を何も言わずに受け止める。勝己くんがわたしに与えてくれる愛はいつだって甘い。特に事後の勝己くんなんて溶けてしまいそうになる位甘々だ。眠るまで優しく髪を梳いてくれるし、その身体すべてでわたしの事を大切だと伝えてくれる。彼が触れた部分から''愛おしい''という感情が広がっていくのが分かる。名前を呼ばれて薄っすらと瞳を開けると、勝己くんの赤い瞳が暖炉に灯った炎のようにゆらりゆらり、優しく揺らめいていた。


手を伸ばして勝己くんの耳に触れる。ぴくりと反応した勝己くんが触れた側の片目を瞑って、咎めるようにわたしの手を取った。


「ねえ、勝己くん」
「ん?」
「……また、暫く帰って来なくなる?」


勝己くんの顔から目を逸らさず言えば、彼は暫く黙って、それから小さく頷いた。

わたしと勝己くんの関係は良好、な筈だ。ただ一つ、月が満ち始めると彼が家に寄り付かなくなる事を除けば。


「……どうして?狼の姿になってしまうから?」
「……」
「…………わたしの隣では、過ごせないの?」
「…………セ」
「……せ?」
「……セックス、したくなんだよ」


思いがけない言葉に、瞳を数回瞬かせてしまった。……セックス?さっきシたばかりだし、何なら今、わたし達は生まれたままの姿で身を寄せ合っている。勝己くんは若干頬を赤らめて、頭を乱暴に掻いた。


「前にも言ったろ?ああなってる時の俺は理性よりも本能が優っちまうんだ。……発情してる状態みてェなモンだからな」
「……だ、大丈夫だよ」
「後、お前の小さい体じゃ無理だ」
「……どういう事?」
「性器のサイズの話だ。人間の時の俺のを受け入れるのでギリギリだろ?……獣化してる時の俺のちんこ突っ込んだら、お前がどうなるか分からねェ」


ぎゅっとわたしの体を抱き寄せ、髪に口付けを落とした勝己くんは「欲に任せてお前を傷付けたくねェんだ、分かってくれ」と掠れた声で囁いた。


「……そんな理由、だったんだ」
「……お前は俺の番だからな。近付いて匂いを嗅いだだけで理性なんて簡単にブっ飛んじまう」
「い、いつもはどうしてるの?発情期、みたいになってるんでしょ?……苦しく、ないの?」
「あ゛ー…………、……お前の事考えながら抜いてる……から、それは気にすんな」


その言葉にかああ、と顔中に熱が集まって、同時に胸が苦しくなる。……勝己くんはわたしの旦那さん、なのに。彼の全部を受け入れたくて、受け止めたくて。強くそう思ったから結婚して一緒になる事を選んだ。でも……結局わたしは人間としての勝己くんとしか一緒の時間を過ごせていない。

勝己くんはわたしの為を思って、ずっと我慢してくれていた。…………もう、我慢、させたくない。


「勝己くん。……次の満月の晩は、どこにも行かないで。……わたしと一緒に過ごして欲しい」
「……お前、今の話ちゃんと聞いてたか?」
「わたしね、勝己くんの全てを受け止める覚悟で結婚したの。……全部、だよ」
「……」
「理性を失った勝己くんに乱暴に抱かれたとしても大丈夫。わたし、そこまで貧弱じゃないもの」
「……お前なァ」
「お、大っきくて入らない問題は少しずつ慣らしていくしかないけどっ……でも、絶対に無理って事はないと思う。……だってわたし、勝己くんの運命の番、なんでしょ?」
「……なまえ」
「ひゃ、っ……か、かつき、くん?」


わたしの右耳に顔を寄せた勝己くんが、熱い舌で耳のふちをなぞる。それから甘く耳朶を食んで、耳の穴に直接言葉を注ぎ込んで来た。


「お前の為だとか格好良い事言いながらよ、本当は月が満ちる度にお前に触れたくて気が狂いそうだった……」
「っ、」
「此処になまえが居れば、って考えながら、何度も何度も頭ン中でお前をめちゃくちゃに犯して……、はァ、……正直、抱きたくて堪らなかった」
「ぁ、かつ、きくん……」
「…………許されるなら、お前を抱きたい」
「……うん。……だから、その……勝己くんを受け入れる準備するの、手伝ってくれる?」
「当たり前だろ。……まだ満月の晩まで時間もあるしな……ゆっくり時間を掛けてお前の身体を開発してやるよ、」


−−−こうして、満月の晩に勝己くんと体を重ねる為のトレーニング(?)が始まったのだった。


prev next

main back