爆豪くんが個性事故で幼児化(後編/バクゴーS番外・R)




ぷい、とそっぽを向いてしまったかつきくんは完全に御機嫌斜めだ。何とか機嫌を直してもらおうと色々と声を掛けてみても、目線すら合わせてくれない。……こ、困ったなあ……。


爆豪くんとの写真を見て不機嫌になった、という事はかつきくんは恐らくヤキモチを妬いてくれた……んだと思う。その事自体は物凄く胸の辺りがくすぐったくなるというか、……うん、素直に嬉しいんだけどね。


「かつきくん、かつきくん、こっち見てくれないかなあ」
「……」
「どうしたらまたわたしとお話してくれる……?」
「……お」
「?」
「オレと''でぇと''するなら……許してやってもいい」


か…………可愛いーーー!声に出さなかったわたしを褒めて欲しい。何この子、可愛過ぎない?唇を尖らせながら「デートするなら許してやる」って……はあ、可愛い。可愛いの言い過ぎで可愛いのゲシュタルトが崩壊しそうだ。


深く息を吸って心を落ち着けたわたしはにっこりと笑って、かつきくんの頭を撫でた。


−「じゃあ、わたしとデートしてくれますか?かつきくん」


***



切島くんの話だと、爆豪くんが元の姿に戻るまで最大で24時間。24時間経つ前に戻る可能性も全然あるという事だ。戻るタイミングが分からない以上あまり遠くには出掛けられない……という事でわたしはかつきくんと近場にある小さな遊園地にやって来ていた。


入園料は無料で、小さな子どもでも楽しめる乗り物や動物とのふれあい広場があるわたしが生まれる前からずっとあるこのレトロな遊園地には、大人になってからも何度か遊びに来ていた。一度だけだけど、爆豪くんとも来たことがある。


かつきくんの小さな手はわたしの手としっかり繋がっていて、その温もりに思わず頬が緩んだ。


「なまえ、あれに乗りたい」
「ジェットコースター?」
「ん」
「いいよ、乗ろっか」


ぱあ、と表情を明るくしたかつきくんにぐいぐいと腕を引かれ、乗り場へと向かう。平日の昼間ということもあって、園内には両手で数えられるくらいの人しか居ない。園内にいる殆どがこの遊園地を''公園''として利用しているから、ジェットコースターは貸し切りだ。

従業員のお姉さんに乗り物チケットを渡して、一番前の席へと案内される。


「かつきくん、ジェットコースター乗れるんだね」
「当たり前だろ!びゅんびゅん早く走ったり落ちたりするのが好きだ!」
「へえ、格好良いなあ」
「なまえは苦手なのか?」
「わたしもかつきくんと一緒で、好きだよ」


にっこりと笑い掛けると、かつきくんも歯を見せて笑ってくれた。すっかりご機嫌は直ったらしい。

小さな子どもでも乗れるとはいえ、結構なスピードで落下したりカーブしたりするこのジェットコースター。大丈夫かな、とかつきくんに視線を向けるとバーから手を離して全力で楽しんでいて安心した。何というか、流石爆豪くんの幼少期だ。


……それにしても子どものエネルギーはわたしの想像以上だった。「次はこれに乗ろうぜ!」「なまえ、早く早く!」−−−兎に角止まらないのだ。もう何回ジェットコースターに乗ったっけ?うう、頭がくらくらする……。


「か、かつきくん、ちょっと休憩しない……?」
「なまえもう疲れたのかよ。情けねえなー」
「面目無いです……」


がっくりと肩を落としながら言えば「仕方ねえから付き合ってやるよ」とかつきくんからお許しが出た。これじゃどっちが大人か分からないなあ、なんて。


「じゃあ飲み物買って来るからここに座って待っててくれる?」
「分かった。すぐにもどってこいよな」
「了解です、かつきくん」


近くの売店でかつきくん用の飲み物と自分の飲み物を買って、かつきくんの元に戻ろうとした時だった。


「お姉さん、可愛いねー」
「俺らと一緒に遊ばない?」


ナンパの常套句を口にする男性二人組に行く手を阻まれてしまったのだ。……う、うわあ、如何にも面倒臭そうなタイプ……!


「連れが待ってるので、」
「連れってあのちびっ子だろ?俺らずっとお姉さん達のこと見てたからさァ」
「あんなガキ放っといて俺達と回った方が楽しいと思うぜ」
「っあ、あの、」


両手に飲み物を持っているからロクな抵抗をする事も出来ず、ジリジリと距離を詰めて来る二人組に冷や汗をかく。−−−その時だった。「なまえからはなれろ!」わたしと男達の間にかつきくんが飛び込んで来たのだ。


「か、かつきくん!」
「だいじょうぶか、なまえ!」
「うん……大丈夫だけど……っ」
「''かつきくん''、なまえちゃんはガキのお守りするより俺らと遊びたいってよ!」
「なまえがそんな事言うわけないだろ!こまってんのが分かんないのかよ!」
「あ?生意気なガキだな」
「お前らなんてオレがやっつけてやる……!」


かつきくんが手のひらで小さな火花を弾けさせると、男達は一瞬瞳を瞬かせたもののすぐに馬鹿にするように笑い出す。


「随分小せェ火花だなァ!折角の強個性なのに、そんなんじゃ爆心地みてェなヒーローにはなれねェぞ!」
「ッばかにすんな!」
「っ、か、かつきくん!」


男に飛びかかったかつきくんが軽く足蹴にされて、慌ててかつきくんの小さな体を支える。こんな小さい子相手になんて事を……!男達を睨み付けるとニヤニヤと下衆な笑みを浮かべている。手を伸ばして来る男達から庇うようにぎゅっとかつきくんを抱き締める。けれど、わたしの腕の中から抜け出したかつきくんはわたしを守るようにまた男達の前に立ち塞
がったのだ。


「なまえ、に、さわるな……ッ!」


その小さな背中が爆豪くんの背中を思い出させて、一瞬呼吸を忘れた。


「てめェッ……!」
「−−−今すぐ彼女から離れろ」


聞き覚えのあるその声に、体に入っていた力が抜ける。ゆっくり後ろを振り返ると、そこにはヒーロースーツを纏った−−−緑谷くんが立っていた。


「デ、デク……!?」
「何でこんな所にッ……お、おい、もう行こうぜ……!」


ヒーローである''デク''の姿を見た途端、血相を変えて去っていく二人組にほっと息を吐く。ど、どうなるかと思った……っ。


「緑谷くん、ありがとう……」
「丁度この辺をパトロール中だったんだけど、言い争ってる声が聞こえたから。まさかみょうじさんだとは思わなかったよ。……大丈夫だった?」
「うん、……あ、っ、か、かつきくん怪我はない……!?」
「……''かつきくん''?」


少し手を擦りむいているけど、大きな怪我はしてないみたいだ。良かった、と小さな体をぎゅうと抱き締めると「は、離せよなまえ!」と全力で抵抗されてしまった。


「みょうじさん、その子どもって……」
「あ、……この子は……」


「……クソデク?」


緑谷くんの顔を見て怪訝そうにぽつりと呟いたかつきくんに、わたしと緑谷くんは揃って顔を見合わせる。


えーと……な、何て説明しよう……。


***


「−成る程、幼児化させる個性か……」
「そうなの……」
「最初見た時はかっちゃんとみょうじさんの子どもかと思って、少しビックリしちゃったよ。あまりにも子どもの頃のかっちゃんと瓜二つだったからさ」
「そっか、緑谷くんは爆豪くんの幼馴染だもんね。ちっちゃい頃の事も知ってるんだ」
「うん。かっちゃん、今と全然変わらないだろ?」
「……そうだね。大の大人相手に飛び掛かっていった時は心臓が止まりそうだったけど、」
「かっちゃんは昔から怖いもの知らずというかさ、自分より明らかに強い相手にも平気で立ち向かっていくんだ。……そういう姿が格好良くて、子どもの頃の僕の憧れだったよ」


疲れたのか眠ってしまったかつきくんに視線を向けた緑谷くんは、昔を懐かしんでいる様子だった。柔らかな頬を撫でると、わたしの服を握り締める手に力がこもった。


「……ふふ、」
「?どうしたの」
「さっきみょうじさんを守る姿を見た時も思ったけど、小さくなってもかっちゃんはみょうじさんが大切なんだね」
「……」
「体が小さくなっても、ちゃんと心が覚えてるんだ。……愛されてるね、みょうじさん」


優しい眼差しに顔が熱くなる。「二人が幸せそうで良かった、」と言う緑谷くんに小さな声で「……ありがとう」と返すと、またひとつ、柔らかな笑みを向けられた。


「……じゃあみょうじさん、僕パトロールに戻らないといけないからそろそろ行くね」
「緑谷くん、本当にありがとう。また今度ゆっくりみんなで集まろう?」
「うん、そうだね!」


去って行く緑谷くんに手を振ると、丁度かつきくんが目を覚ました。きょろきょろと周りを見渡すかつきくんは、どうやら緑谷くんを探しているらしい。


「あいつは?」
「今帰ったよ」
「…………」
「かつきくん?」
「…………オレが、守りたかったのに」
「、」
「あのクソデクに似たヒーローじゃなくて、オレが……」


小さな手をぎゅっと握り締めるかつきくんの体をゆっくり抱き寄せる。小刻みに震える体を落ち着かせるように、そっと背中を撫でた。しゃくり上げるかつきくんに胸がつきんと痛んで、わたしまで泣きそうになってしまう。


「格好良かったよ、かつきくん」
「ッ……!」
「あの時かつきくんが助けに来てくれて、すごく安心した。……ありがとうね」
「で、もッ……!」
「わたしのヒーローは、かつきくんだけだよ」


そう言うと、かつきくんはわたしの肩口に顔を押し付けて少しだけ泣いた。……決して泣いてる顔を見せないところも、小さい頃から変わらないんだね。金糸を編んだようなうつくしい金髪を指ですきながら、掠れた泣き声に耳を傾ける。腕の中の温もりがどうしようもなく愛おしいものに思えて、わたしはかつきくんの旋毛にひとつ、唇を寄せた−。



−−−無事に帰宅したわたしとかつきくんは、夜ご飯を食べてから一緒に布団の中に潜り込んだ。子どもの頃のかつきくんと過ごせるなんて本来ではあり得ない、夢みたいな1日だったなあ、と心の中で今日という日を振り返る。


''かつきくん''とはもうお別れなのだ。……そう考えると、少し、いや、かなり寂しい。この姿をしっかり目に焼き付けておこう、と微睡んでいるかつきくんに視線を向けると、蕩けた瞳と視線がぶつかった。


「……なまえ、」


内緒話をするみたいに潜めた声。紡がれる言葉を聞き取る為に寄せた頬に、柔らかな感触が押し付けられたのはほんの一瞬だった。

頬に触れた唇に驚いて目を見開くと、視界に飛び込んで来たのは目を細めて笑っているかつきくんの姿。


「……だいすき」
「か、」
「つぎはぜったい、……おれが、まもって、やるからな……」


それだけを伝えたかったのか、言葉を終えると同時に閉じられた瞼と、聞こえてくる健やかな寝息。
…………とてつもない爆弾を落とされたわたしの頬はトマトみたいに真っ赤に違いない。


「…………ホント、敵わないなあ」


……わたしも大好きだよ、かつきくん。
耳元でそっと囁き返してから、わたしもかつきくんと一緒に優しい夢の中へと落ちて行くのだった−……。



( 目を覚ますと既に元の姿に戻っていた爆豪くんは、小さくなっていた間の事は何一つ覚えていないのでした。かつきくんが沢山写ったわたしの写真フォルダを見た爆豪くんは顔を真っ赤にして「今すぐ全部消せ!」と怒ったけれど、フォルダにロックを掛けて全部大切に保存しています。……かつきくんの写真を送ったら光己さんは凄く喜んでくれて、今はスマホの待ち受けにしているみたいです。 )



−−−

マキラ様リクエスト
「爆豪くんが個性事故で幼児化」
でした!

後編、大変お待たせして申し訳ありません。素敵なリクエストありがとうございました!


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