赤井家の長女は平和に暮らせない@

兄の死を告げられてショックで泣きじゃくった数日後、けろりとした顔で私の前に姿を現した兄の腹を思い切り殴った。私の方がダメージを受けた。痛すぎる。「何考えてんの?」「悪かった」「悪かったで済むと思ってる?」

仕方が無かったのだとソファにふんぞり返ってコーヒーの入ったカップを傾ける兄が憎たらしいことこの上ない。謝るにしたってもっとあるだろう。それに、何よりも、兄が死んだと人伝に聞かされて、はいそうですかと納得なんて出来るはずもない。遺体も無く、ただ死という言葉だけを投げられた。

「私が…ッ、わたしが、どれだけ…っ、兄さんのバカ…!」と溢れ出した涙は何の涙なのか分からない。安心したのか、怒りなのか。ぽろぽろと頬を伝って落ちる私の涙に兄は目を見開いてからバツが悪そうに顔を顰めた。「……悪かった。お前なら、理解してくれると思っていたんだ。不安にさせたな」

そっと抱き寄せられて、ぎこちなく頭を撫でられる。私が泣く度に困った顔をして、どうしたらいいのか分からないといった様子で頭を撫でるのは昔からだ。「ぅぅ…っ、なんにも、知らないのに理解もクソも無いじゃない…!しんぱいしたんだよ、ほんと、最低…っ、ばか、兄さんのばかぁ…ッ、!」

どん、と兄の胸元を叩いて怒りをぶつける。涙は止まらなくて、私を抱きしめる兄の手に力が入る。「…あぁ、そうだな。心配をかけて、すまなかった」と優しい声で謝った兄が私の頬を両手で包む。こつん、と合わせられた額のおかげで、視界が兄でいっぱいになる。昔から、兄はこうやって私を慰める。

「好きなものを買ってやる。お前がやりたいことにも付き合う。だから、泣き止んでくれ」と額にちゅ、と唇が触れて、もう一度抱きしめられる。「……兄さんが、100パーセント浮きまくる可愛いカフェ連れてってやる。一番高いメニューも食べてやる。私が、いいって言うまで、付き合って」

ぶすりと唇を尖らせて兄を睨みつけた私に、兄は驚いたように目を見開いてから「あぁ、勿論」と微笑んだ。無事に仲直り、と言いたい所だがひとしきり泣いて冷静になった頭でふと気が付く。「…兄さん、死んだフリをしないといけない様な状況なんだよね?」「そうだな」「何で、私にバラしたの…?」

「お前にも少し協力してもらおうと思ってな」「思ってな、じゃないわよ。あの子たちと違って私に出来ることなんて何も無いわ!」「まあ落ち着け。話だけでも聞いてくれないか」「話を聞いたら後戻り出来なくなるでしょう!?」「……チッ」「今舌打ちした…?ちょっと兄さん!?」「気のせいだろ」
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