「一日だけ、預かって貰ってもいいか?」と申し訳なさそうな顔で頼まれてしまったら「もちろん!」と答える以外の選択肢は無かった。降谷さんからお願い事なんて中々無いからこそ、頼ってもらえたことが嬉しくて頷いた。
そして私の家にやって来たのは小さくて、白くて、ふわふわした可愛いわんちゃん。「ハロちゃん、こんにちは」と笑って目線を合わせれば、差し伸べた手の匂いをくんくんと嗅いでからすりすりと頭を押し付けてくる。
「ははっ、やっぱり大丈夫だったな」と笑う降谷さんに「やっぱりって?」と首を傾げれば「もしハロが嫌がったりしたらどうしようって思ったんだけど、僕が君を大好きだっていうのが伝わったのかな」とクスクス笑って私の額にキスを落とす。
「……なんですか、それ」とそっぽを向けば「ははっ、ごめんごめん」と笑いながら私の頭をぽんぽんと撫でる。ハロちゃんは「くぅん?」と不思議そうに首を傾げて私たちを見ているから「何でもないよ」と頭を撫でてあげればぱたぱたとご機嫌にしっぽが揺れる。
「じゃあ行ってくる。一応帰りは連絡するけど、遅くなりそうだったら先に寝てていいから」とハロちゃんの頭を撫でてから私を見た降谷さんに「はい。了解です。気をつけて行ってらっしゃい」とハロちゃんを抱っこして手を振る。
そんな私をじっと見つめる降谷さんに「どうかしました?」と尋ねれば「…いや、結婚したみたいだなって思って」と返されてぎょっと目を見開く。「な、何言ってるんですか!もう!早く行かないと遅刻しますよ!」と真っ赤な顔で降谷さんを玄関の外にぐいぐいと押せば「はいはい、行ってきます」と笑いながら降谷さんが手を振って出発する。
「……びっくりしちゃうじゃんね」とハロちゃんの頭にきゅうっと顔を埋めれば「アン!」と同意するように鳴いてくれるから嬉しくてちゅっとキスを送った。それから家の中をふんふんと嗅ぎ回って探検するハロちゃんの写真や動画を撮って、一緒にご飯を食べて、一緒にお昼寝をする。
お腹を出してぷうぷうと眠るハロちゃんを見て「安心してくれてるみたいで、よかった」と微笑んでパシャリと写真を撮る。降谷さんに写真を送れば『ウチにいる時より寛いでるみたいだ』と返事が来て思わず笑ってしまう。
その声で目が覚めてしまったのか「わふ」と不満そうに鼻を鳴らすハロちゃんのお腹を撫でて「ごめんごめん。寝ててもいいよ」と優しく声をかければ、再びぷうぷうと眠り出す。起こさないようにそうっと夜ご飯の支度を始めて少しすると、匂いにつられたハロちゃんがカシャカシャと音を立てて近付いてくる。
「あらら、起きちゃった?」と足元を見れば「アンッ!」と元気なお返事。「ダメだよ。危ないから向こうに行ってて」と苦笑いをすれば、しょんぼりしながらリビングに戻っていく。その後ろ姿が可愛くて、可哀想で、思わず撮ってしまった。
本日何度目かのメッセージを降谷さんに送れば『そろそろ帰れそうだから、ハロのご機嫌取りは僕に任せて』と返ってくる。「ハロちゃん、降谷さん帰ってくるって」と声をかければ、ピンッと耳としっぽが立ち上がって心做しか目がキラキラと輝き出す。
「嬉しいねぇ」と笑いながらハロちゃんを見れば「アンッ!」と返事をしてくれる。ぱたぱたとご飯の準備をしていれば玄関の扉が開く音がして「ただいま」と降谷さんがリビングに顔を覗かせる。
「おかえりなさい!」とキッチンから顔を出して返事をすれば、驚いた顔をした降谷さんと目が合って「どうしたんですか?」と首を傾げてしまう。大好きな降谷さんの帰宅にテンションが上がったらしいハロちゃんが足元でじゃれつくのを片手で制しながら降谷さんが私を見つめる。
「もうちょっとでご飯できるので、ハロちゃんとゆっくりしててください。あと、ハロちゃん、今日一日とってもいい子だったから褒めてあげてくださいね」と声をかけて再び料理を始めれば、いつの間にかキッチンに入ってきていた降谷さんが私を後ろからぎゅうっと抱き締める。
「わっ…!?ふ、降谷さん…?」と声をかければ、私の肩口に額を押し付けてぎゅううっと更に強く抱き締められる。「え、えと、あの、危ないですよ」と戸惑いながらお腹に回った手を叩けば「…さっきの、すごい、よかった」と小さな声が返ってくる。
「さっきの?」と首を傾げれば「いってらっしゃいも、おかえりも、家に香澄がいるのが嬉しくて…ごめん」と呟いた降谷さんに胸がきゅんと高鳴った。どうしよう、何だかちょっと可愛いかもしれない。
腕の中でもぞもぞと体の向きを変えて正面からぎゅっと抱き着いて「私も、いってらっしゃいとおかえりを言えるの嬉しかったです」と言えば、体を離した降谷さんがすっと目を伏せる。あ、キスするんだ。とすぐに分かって目を閉じようとした瞬間だった。
「アンッ!アンッ!」と抗議するようにハロちゃんが大きな声で吠えて降谷さんの裾を噛んでぐいぐいと引っ張る。「お、おい、ハロ…!どうしたんだよ、」と混乱した様子の降谷さんのことなどお構い無しにキッチンの外へ向かって降谷さんを引っ張るハロちゃんを見てハッとする。
「さっき危ないから向こう行っててねって言ったから…それかも…」と苦笑いで言えば「そういうことか…」と降谷さんも同じように苦笑いを零して大人しくキッチンを出る。そんな降谷さんを見てハロちゃんが満足そうに「アンッ!」と鳴いた。