カチ、カチ、カチ、と音を立てて数字を減らしていく黒い塊。「お、おわぁ…」と間抜けな声を出してぺたりと座り込む。大変だ、腰が抜けて立てない。震える手でスマホを開いて引っ張り出したのは私から一度も連絡したことの無い人。
「香澄?悪い、今立て込んでんだ。後で折り返すから…」と慌てた口ぶりで話す松田さんに「ば、ばくだん、たす、たすけて、」と震える声で呟く。イケメンは怖い。でも目の前の黒い塊はもっと怖い。助けてプロの人。
「はァ!?おま、今どこだ!?」と耳元で聞こえる大きな声に驚いて悲鳴が零れる。「ひえっ、あっ、しょっぴんぐもーる、あの、えきちかくの、」とたどたどしい口調で何とか居場所を伝えれば「チッ!やっぱりか…いいか?落ち着いて聞けよ」と松田さんがゆっくりと私に話しかける。
「お前がいるのは何階だ?」と聞かれて「い、いちばん、うえ」と震える声で返す。「最上階な。分かった。今いる場所から一番近い店、分かるか?」と私の言葉をきちんと繰り返してから次の質問をしてくる松田さんに返事をするべく辺りを見回す。
「え、と、おみせ、なくて、といれの、」とたどたどしい返事をすれば「ん、分かった。大丈夫だ、分かんなくていい。そこに行く前に見た店、思い出せるか?」と優しい声が耳に響くから、何とかここに来るまでの道のりを思い出す。
混乱していて何度も来ているはずの建物の構造すら思い出せない。「さいご、は、えれべーたー、あって、めがねやさん、もあった」と片隅にあった記憶を引っ張り上げれば「エレベーターと眼鏡屋な。ん、よく覚えてたな」といつもの松田さんから想像できないほどの穏やかな口調に、少しずつ気持ちが落ち着く。
「お前のいる場所は分かった。すぐに萩原たちがそっちに向かうから、安心しろ」と言われるけれど、全然安心できない。「ま、まつ…っまつだ、さ、」と震える声で名前を呼べば「どうした?」と優しい声が返ってくる。
「こ、こし、ぬけて、たてない、」と半泣きの私の声に「あー…っクソッ、いや、立たなくていい。走ったりしなくていいから、とにかく爆弾から離れろ。ゆっくりでいい」と少し焦ったような声色にずび、と鼻を啜りながらずり、ずり、と座ったまま手の力だけで後ろに下がる。
「大丈夫だ。ちゃんと助けるから、」と言う松田さんの声を遮るように大きな音がして地面が揺れる。ぐらりとバランスを崩した衝撃で手からスマホが転がり落ちる。視線を向けた、その先。ガラガラと崩れ落ちる天井と床が見えて、ゾッとした。
スマホから微かに聞こえる松田さんの声がどんどん遠くなっていく代わりに、地面の揺れと大きな音は断続的に耳に入る。近くで一際大きな音がして、地面がぐらりと大きく揺れる。勢いよく吹いてきた風に煽られて体が倒れる。
勢いよく頭をぶつけてぐらり、と視界が揺れて「い、ったぁ…、」と声が出た。痛いし気持ち悪いし何より怖い。「もう、やだ」と小さな声で呟いてぺたりと地面に頬を寄せて、ぷつりと意識を手放した。