天秤にかけるまでも無い

「じゃあ今度は俺ね!」などと言う意味の分からない理屈で連れて来られた神奈川で出会ったのは超絶美人のお姉さん。思わず両手で口を覆ってはわわ…と固まったが、萩原さんのお姉さんだと言われて思わずぐるんと萩原さんを見た。

「何でもっと早く紹介してくれないんですか」とジト目で言えば萩原さんは「え、ごめん」と困った顔で謝る。「君が香澄ちゃんか」と私を見てふわりと笑ったお姉さんに「……えっ、すこぶる美人……」と両手で口元を覆ってしまう。

「あれ??俺らの時とリアクション違いすぎない??」と背後で首を傾げる萩原さんの声なんて聞こえない。「あ、あの、お姉様とお呼びしても……」と恐る恐る手を挙げれば「ああ、勿論。構わんよ」と楽しそうにくすくす笑われる。

何て綺麗な笑顔なんだ、と思ったら「わ、わぁっ……!」と歓喜の声が思わず漏れてしまう。千速さんにメロつく私を見て「ちょっっっと待って何で???」と萩原さんは盛大に頭を抱えていた。ちょっとうるさいですよ。千速さんの声が聞こえないでしょう。

「あ、あの…!千速お姉様!連絡先とかって…頂けたり…」と恐れ多くもお願いしてみれば「勿論。今度は研二抜きで一緒に食事にでも行こうな」と頭をぽんと撫でられてしまい「きゃあ〜〜!!是非!!」と飛び跳ねて喜んだ。

大喜びの私の背後で「解せないんだけど???」と萩原さんは首を傾げていて「おいハギ、何余計なことしてんだよ」と松田さんが嫌そうに眉間に皺を寄せる。「いやでも…この展開は予想できなかったよね…」と諸伏さんは苦笑いを零している。

「女性相手だとこうなるのか…」と物珍しいものを見るような目をする降谷さんの隣で「未だかつて無いくらいイキイキしてるな…」と伊達さんも乾いた笑い声を上げている。やいのやいの言ってくる五人をキッと睨み付けて「うるさいですよ!!そこ!!」と文句を言う。

イケメンと美人を天秤にかけてイケメンに傾くわけがないでしょう、と憤っていれば「男どもなんか気にしなくていい。私だけ見てろ」と千速さんが私の顎をクイッと持ち上げる。ぽけーーっと綺麗な顔を眺めながら「ひゃ、ひゃい……」と何とか返事をするけれど顔は熱いし心臓も痛い。

「こ、これが……恋……」と胸を押さえて呟けば「ちげーよ」「違うよ」と松田さんと萩原さんからツッコミが入る。「黙ってください。私は今千速さんとお話をしているんです」とそっぽを向けば「あ??生意気言うのはこの口か??」と松田さんの手が頬を抓る。

「ひはひれふ!!」と抗議の声を上げれば「姉貴と話したかったら俺に許可取ってね」と萩原さんに微笑みかけられる。何なんですかこの人達!!と声を荒げる私を見て千速さんが楽しそうに笑ってくれる。この笑顔、プライスレス。

千速さんと別れて東都に戻って来てから数日後。私は「お願いします!お姉さんに会わせて下さい!」と萩原さんに向かって頭を下げていた。「…はぁぁぁ」とそれはもう大きなため息を吐いた萩原さんに「何ですか」とジト目を向ける。

そんな私を見てから、もう一度しっかりめにため息を吐いた萩原さんが「香澄ちゃんから初めて誘われて嬉しかったのに目的が自分の姉だった時の心境を10文字以内で述べよ」と言いながら両手を組んで指の背に顎を乗せる。

萩原さんの気持ちなんて知ったことか。「早く会わせてください」と真顔で言い切れば「10文字ジャストにしないで」と萩原さんが両手で顔を覆ってしまった。いつも私がやっているようにしくしくと泣く萩原さんに「お願い萩原さん…!」ともう一度頼み込む。

本日何度目か分からないため息を吐いた萩原さんだったけれど、すぐに顔を上げて「じゃあ俺とデートしようね」と私ににこりと微笑みかけてくる。「それは刺されるからちょっと…」と手のひらを萩原さんに向ければ「だから刺されないってば」と苦笑いで返される。

「無理ですって!私なんかが百戦錬磨のモテ男である萩原さんをエスコートできる訳ないじゃないですか!」と抗議の声を上げれば「何で百戦錬磨のモテ男と認識してる相手をエスコートする側に立ってんの???エスコートされる側でしょ。ていうかその呼び方何だよ…」と萩原さんが頭を抱える。

「松田さんが言ってました」と正直に犯人の名前を白状すれば「あんにゃろう」と萩原さんが舌打ちをする。珍しいものを見たかもしれない。が、今はそれどころではない。「そんなことよりお願いします!」と再び頭を下げれば「俺にとってはそんなことじゃないんですけど」と萩原さんが唇を尖らせる。

何がそんなに不満なんですか。お姉さんの事、紹介したくないくらい好きってことですか。あまりにも了承してくれない萩原さんに「このままじゃ私の住民票が神奈川になっちゃう…」と呟けば「なりません」と即答されてしまう。

「萩原さんの意地悪!」「それ香澄ちゃんが言う??」「どういう意味ですか?」「いいよ、どうせ言っても分かんないし」「何で今日そんなに私に当たり強いんですか!?そんなにお姉さんのことが好きなら紹介しなきゃよかったのに…」「ああもうほら、やっぱりそっちになってんじゃん」「そっち?どっちです?」「香澄ちゃんがポンコツってこと」「はあ!?!?」
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