「い、いやだぁぁぁあああ!!!」と誰もいないのを良いことに思う存分に悲鳴を上げた私に負けないくらいの声量で「うるッせェ!!!ワガママ言うな!!!」と松田さんが怒鳴ってくる。
「どっちが!?!?」と電話越しに松田さんに文句を言う、と言うより泣き叫ぶ。本気ですか?馬鹿ですか?あっ馬鹿ですね、分かりました。もう嫌だ!!!「いいか?お前がそれを解体するんだ」と静かな声で言われて、割と本気で「松田さん頭打ちました?正気ですか?」と聞き返した。
その結果「お前マジで会ったら覚えとけよ」と低い声で威嚇された。こ、怖いよう…一般人に凄んでくる…えぇぇん…。しくしくと泣けども辺り一帯は瓦礫の山。私を助けるためにこちらに向かっているらしい萩原さんたちは瓦礫に足止めを食らって時間がかかっているそうだ。
このまま待っていてもいいが、時間切れでドカンの可能性の方が高いらしい。「失敗しても待ってても死ぬんだ。どうせならちょっとでも生き残れる可能性が高い方に賭けようぜ」なんて、とんだ大博打だ。
でも私だって死にたくない。背後から刺されて死ぬのは嫌だし、人から恨みを買うのもゴメンだ。でも、誰だか分からない人から向けられた突然の無差別な悪意に巻き込まれてタヒぬなんて、理不尽以外の何物でもない。
絶対に、嫌だ。松田さんの言う通り、どうせタヒぬなら自分で失敗して死んだ方がマシだ。が、とは言え怖いものは怖い。何が悪い。「うっ…うっ…だとしたって怖いに決まってるじゃんかぁぁ…ぅぇええ…」とえぐえぐ泣きながらずりずりと爆弾の前まで移動する。
そんな私の耳元で「大丈夫だ。指示出すのは俺だ。俺が絶対お前を死なせない」と松田さんの声が響く。「ぜ、絶対ですからね!!絶対って言いましたからね!!ま、まつっ、ださん…っのばかぁぁあ!!」とえぐえぐ泣きじゃくる私に「ああ、絶対だ。任せとけ」と松田さんが笑う。
通話をビデオ通話に切り替えてそうっと爆弾を映して「みえますか」とずるずる鼻を啜りながら聞けば「爆弾の前にお前の顔見せろ」なんて言葉が飛んでくるから「嫌です。早くしてください」とそれをバッサリ切り捨てる。
こんな涙と鼻水でぐずぐずの顔を見せる訳ないでしょう。「お、まえなぁ…はぁ…ビビりなのか肝座ってんのかマジでどっちなんだよ…」と盛大に呆れたようなため息を吐いた松田さんが「うしっ、やるか」と気合を入れる。最初からそうしてください。
「まずは、上のネジで止まってるやつを外せ。そう、それだ。あってる」と松田さんの指示で一つずつ、ゆっくり、解体が進んでいく。目の前に自分の命が消し飛ぶ塊が置かれていて大騒ぎできるほどの心の余裕は無い。
とにかく無心で松田さんの指示に従って解体を進めるだけだ。パチン、パチン、とコードを切る音が聞こえる度に鳥肌が立って息が詰まる。あ、これやばい。マジでめっちゃ怖い。どうしよう。
「よし、あとは最後に、奥の赤いコードを切れば止まるはずだ。……香澄?おい、聞こえてるか?香澄?」と松田さんの呼び掛けに答えたいのに、声が出ない。かたかたと手が震えて呼吸が乱れてるのが分かる。
「は…っは、はぁ…っは、っ、」と荒い呼吸の音が聞こえたのか松田さんの声が焦り出す。「香澄!!頼む、あと一本だからもう少し頑張れるか?怖いのは分かる。大丈夫だ。俺が失敗させない。萩原も来る。大丈夫だから、頼む香澄、香澄!!」と聞こえてくる声に呼吸を整えようとすればするほど、から回る。
息できない。やだ、怖い。もう、聞きたくない。やだ、たすけて。ボタボタと涙が溢れて止まらないのに、声は出ない。泣き叫びたいのに、何かを押し込まれたように喉が詰まっている感覚がする。
「は…っは、っぅ、ぁ…は、はぁっ、はっ、」と繰り返される荒い呼吸に視界が揺らぐ。どさ、と地面に倒れ込んでスマホが手から滑り落ちた。悲鳴にも似たような松田さんの声とカチ、カチ、と無情にも時を刻む黒い塊。
手を伸ばしたけれど、空を切った手がぱたりと落ちてまぶたが重くなる。くるしい、いやだ、しぬのは、いやだ。「た、…て、」 たすけて、と声にならなかったSOSは松田さんには届かない。何度も、何度も呼ばれる自分の名前を聞きながら私は意識を手放した。