萩原さんたちのフォローもあり、日常生活は送れるようになってきた。誰彼構わず自分に近付く人に怯える野生動物みたいになる所だったから、正直本当に助かった。
退院の日に萩原さんと松田さんがわざわざ迎えに来てくれて看護師さん達からは「あの二人のどっちが彼氏なの?」「えっあの金髪の子じゃないの?」「猫目の子だと思ってたんだけど」と囲まれてしまい「あんなイケメン侍らせて歩いてたら刺されそうですよね。分かります」と斜め上の回答で困らせたのが先程の話。
「で?実際どうなの?」とハンドルを握りながら尋ねてきた萩原さんに首を傾げる。「どうとは?」と怪訝な顔をした私に「どっちが彼氏なのってやつだろ」と助手席で松田さんがくつくつと喉を鳴らす。
「は???有り得ませんけど」と即答すれば「そんなバッサリ?え〜〜傷付く〜〜」と萩原さんがけらけら笑う。だったらもう少し傷付いた態度取ってもらっていいですかね。ジトリと二人を見つめれば「んじゃ逆に俺らがお前のこと好きっつったらどうすんだよ」と松田さんがニヤリと悪戯っ子のように笑うから「……時と場所を考えて欲しいです」と怪訝な顔で手のひらを向ける。
「言うのは別に構いませんけど時と場所次第ではマジで刺される前に私が刺します」と頷けば二人揃って声を上げて笑い出した。「ふっ…くくっ……っく、ふはっ、ダメだ…ッ、」とぷるぷる震える萩原さんに「ハギおま、笑うの止めろ…っぐ…ッふはっ、ははっ…!マジ事故るから…!」と松田さんもひぃひぃ言いながら笑い出す。
もう放っておこうと遠い目で窓の外の景色を眺めていればあっという間に自宅に到着する。久しぶりの自宅にホッと息を吐いていれば「香澄ちゃん!おかえり!」とエプロンを付けた諸伏さんがひょこりと顔を覗かせる。
「た、ただいま、帰りました…」と驚きながら返事をすれば、きょとりと目を瞬かせてから「そんなに驚く?」とクスクス笑われる。リビングでは我が物顔の降谷さんが寛いでいて「ああ、おかえり」とかけられた声に「私の家ですよね???」と本気で首を傾げた。
勝手知ったる様子で手を洗い、飲み物を用意して寛ぎ出した萩原さんと松田さんも馴染みすぎだろう。「あ、そうそう。さっき車でさ、」と楽しそうに話し始めた萩原さんを横目に手を洗うべくリビングを後にする。うん、もう好きにしてください。
洗面所で手を洗ってリビングに戻ろうとすれば諸伏さんと降谷さんの笑う声が聞こえてくる。「……楽しそうですね」とジト目でリビングに入れば「時と場所によっては刺しちゃうんだ…っふふ、」と目尻に涙を浮かべて笑う諸伏さんに「そうですね。やられる前にやります」と返せば「何で君はそう好戦的なんだ…くくっ、」と降谷さんも肩を震わせる。
その言葉にほんの少し違和感を覚えて「?好戦的ですか?自衛の術だと思いますけど」と首を傾げれば萩原さんたちも「え?」と首を傾げる。一体何を言っているんだと思いながらキッチンに向かい、自分のマグカップを取り出して「嫉妬にかられた女子達に刺される前に自分で自分を刺すんですよ。好戦的って言わなくないですか」と言いながらケトルの中のお湯を注ぐ。
「ちょ、ちょっっと待って!?!?」とバタバタとキッチンに駆け込んできた萩原さんにビクリと肩を揺らして「うわっ、なんですか」と視線を向ければ「刺すって俺たちじゃなくて!?」と驚いた顔をしているから「はぁ?萩原さんたちを刺したら、それこそ嫉妬が怖いのでやりませんよ。というか、刺せる訳ないじゃないですか」と何を言っているんだと言わんばかりに眉間に皺を寄せてしまう。
「何言ってんだみたいな顔してんじゃねぇよ!!こっちのセリフだわ!!」と声を荒げた松田さんが思い切り私の頰を抓るから「いっ、!?はにふるんれふか!!」と松田さんの手をビシリと叩き落とす。
ひりひりする頬を片手で撫でながらカップを持ってキッチンを出ようとするけれど、大の大人がすし詰めになっていて出られない。「邪魔ですよ」と萩原さんたちを押しのけてリビングに戻れば目を見開いた諸伏さんと降谷さんが私を見る。
「え…?えっと、今のは…?」と不安そうに視線を泳がせる諸伏さんに首を傾げて返せば「告白のシチュエーションの話をしていたんだよな…?」と降谷さんが恐る恐る聞いてくる。何ですか、揃いも揃って。「私が好んでした訳じゃないですよ。萩原さんと松田さんが振ってきた話題に乗っただけです」と返して椅子に座ってカップを傾ける。
あ、熱かった。舌やけどしたかも。なんて思いながらふうふうとカップの中身を冷ましていれば「俺たちが香澄ちゃんに告白したら、どうする?って話をしてたんだよな…?」と諸伏さんが聞いてくるから「?そうですけど。だから告白するのは別に個人の勝手なのでどうでもいいけど、時と場所によっては嫉妬にかられた女子たちから自分の身を守るために自死しようと思ってますって話をしたんですよ」とけろりと返す。
あ、そろそろ丁度いい温度かも。ずず、とカップの中身を一口飲んでホッとしていれば「そんな話一ミリもしてなかったじゃん!?」「お前がいつそんな話したんだよ!!」と萩原さんと松田さんが声を荒げるし「聞いてた話と全然違うじゃん!!」「お前ら適当言うの止めろよ!!」と諸伏さんと降谷さんも加わって四人で言い合いが始まる。
「……うるさい」と呟いたけれど、この騒々しさに安心感を覚えている自分がいることに驚いた。最初は本当に嫌で嫌でしょうがなかったのに、いつの間にか傍にいないと落ち着かなくなってしまった。きっとこれが誰かを大事に思う気持ちで、好きってことなんだと思ったら、これはこれで悪くないと思えた。