「萩原さんと付き合って良かったな〜って思えた事があって」と口にした私に萩原さんはグリンッとものすごい勢いでこっちを向いた。怖いです。思わず「うわ」と声が漏れるほど怖かった。
換気扇の下でタバコを吸っていたはずの萩原さんはまだ火を付けたばかりのタバコを消して私の所に近付いてくる。「心の準備するから待って」と私の隣に座って胸を押さえる萩原さんを呆れながら見つめていれば、私の手をぎゅっと握った萩原さんが「よし!」と謎の気合いを入れる。
さぁ来い、と言わんばかりの顔で私を見る萩原さんに首を傾げながら「萩原さんと付き合ったことで、本気で千速お姉様って呼んでも間違いじゃなくなったんですよね」とマグカップの中の紅茶をずず、と啜る。あ、これ美味しい。また買おう。
あんなに目を輝かせてたのに反応無いなぁ、と思いながらちらりと萩原さんを見れば両手で顔を覆って肩を震わせていた。「俺の…俺の純情が…弄ばれた…」としくしく泣く萩原さんに「はぁ?」と首を傾げれば「香澄ちゃんがデレてくれるのかと思ってめっっちゃ期待したのに!!よりにもよって姉ちゃんに全部持ってかれた!!」と文句を言われる。
「持ってかれたって…」と呆れながら返せば「もっと他にあるでしょ。俺と付き合って良かったこと」とぶすりと唇を尖らせた萩原さんが、かばりと私に抱き着いてくる。ぐりぐりと肩口に頭を押し付けられて髪の毛が首筋や頬を撫でるのがくすぐったい。
「あっ、電球変える時に困らなくなった」「それこの間の一回だけじゃん」「買い物が楽になった」「それ諸伏ちゃんに護衛されてた時から言ってるじゃん。俺だけじゃないじゃん」「ああ言えばこう言うじゃん…」と子供のように文句を言う萩原さんに苦笑いが零れる。
そんなこと言われても、たまにしか来てなかった萩原さんがしょっちゅう家に来るようになったくらいだし、そんなに変わってないんだよなぁ…と思いながら考えを巡らせる。うんうん、と唸る私に「……ほんとにねぇのかよ…」とガッカリしたように肩を落としてぎゅううっと私を抱き締めた萩原さんに小さくため息を吐く。
それから、とんとん、と背中を叩いて「萩原さん、ちょっと離して」と言えば、そろそろと体が離れる。ぶすりと不貞腐れたような顔で唇を尖らせる萩原さんを見てふっと吹き出す。何て顔してるんですか。
「イケメンが台無しですねぇ」と笑いながら萩原さんの頬を両手でむぎゅっと潰せば、萩原さんはジト目で私を見る。「萩原さんと付き合ってから、寂しいって思うことがなくなりました」と告げれば萩原さんの目が大きく見開かれる。
「なーんて、冗談です」と恥ずかしさを誤魔化すように手を上げてソファから立ち上がろうとすれば、ぐいっと手を引かれて逆戻り。後ろから抱えるように私を抱き締めた萩原さんが首筋にちゅっと唇を這わせる。
「ぅっ、ひ、」と肩を竦めれば「それ、ほんと?」と萩原さんが私を抱き締める手に力を込める。「……ほんとですよ。何ですか、離してください」とお腹に回った手をビシビシ叩けば「無理。なんでそんな可愛いこと言うの。好き」と小さな声で呟いた萩原さんの手が私の顎を掴んで、無理やり後ろを向かされる。
驚く間もなく唇が重ねられて、その口付けはどんどん深くなっていく。息も絶え絶えになりながら背後の萩原さんに体重を預ければ「ははっ、目とろとろになってる。かぁわいい」とふにゃふにゃ笑った萩原さんが私の手をぎゅうっと握る。
「だれのせいだと…ッ、!」と抗議の声を上げた私だったけど「ん?おれ」と語尾にハートマークを付けたような甘い声で笑った萩原さんに白旗を上げた。