「よし!じゃあこの話は終わり!」とパチン!と手を叩いた萩原さんが私の手からするりとカップを奪う。
テーブルの上に置かれたカップを目で追っていれば、するりと両手を握られて「俺のこと、助けてくれて本当にありがとう。どれだけお礼しても足りないくらいの恩が香澄ちゃんにはあるんだ。だから、これから一生かけて恩返しさせてね」と真正面から見つめられる。
握り締めた両手にちゅ、と唇が落とされて一気に顔が熱くなった。「ぅえっ、えっあのっ、」と狼狽えていれば「ははっ、顔真っ赤。かぁわいい」と指の背で頬を撫でられて「ぁ…っあの、はぎ…っ、〜〜ッ、!?」と声も出せずに固まってしまう。
待って、待っっって。萩原さんの視線から逃げるように、きゅうっと目を瞑れば「……ははっ、」と再び笑い声が聞こえる。すっと目の前の萩原さんが動いたような気がした、瞬間だった。
後ろから回ってきた腕にぎゅうっと抱き締められて「おいハギ、テメェ…」と唸るような松田さんの声がすぐ後ろで聞こえてくる。恐る恐る目を開けて背後に視線を向ければ「毎回毎回良いとこ持ってくんじゃねぇよ」と不満そうな顔をした松田さんがいて、その距離の近さに息を飲んだ。
「お前も逃げるとか、もうちょっと抵抗しろよ」と私を見た松田さんが私の頬をむぎゅ、と摘むから「そ、そんなこと言われても…!」と半泣きになる。ど、どうやって抵抗しろと言うんですか。
なんならこの状況も困るんですけど、誰か助けて。「陣平ちゃんの方が距離近くない?」「うるせぇ」「香澄ちゃんも苦しくて嫌だよねぇ?」と私を挟んで会話をする二人に私なんぞが口を出せるはずもない。
バクバクと音を立てる心臓と、熱くなっていく顔。耐えるように俯いていれば「二人して香澄ちゃんのこと困らせてどうすんだよ」と諸伏さんが呆れたような顔で私たちの前に立つ。
そのまま流れるように手を取られて、くんっと引かれるまま立ち上がるけれど、バランスを崩して諸伏さんに支えられる。腰に回された手に「ひっ、ぅ、」と声が漏れて、背中がぞわぞわする。
「おいヒロ、」と飛んできた降谷さんの低い声に「今の俺のせいなの?」と諸伏さんが苦笑いで返す。半ば抱き上げられるように諸伏さんが座っていた方のソファまで連れてこられて、諸伏さんと降谷さんの間に腰を下ろす。
「ごめんな、手痛くない?」と諸伏さんが私の手を取って目を伏せる。「ぁ、ゃ…へいき、です…」と返せば「アイツらには後でちゃんと言って聞かせるから」と降谷さんが髪の毛を梳くようにするりと頭を撫でてくる。
ビシリと固まっていれば「僕は、君を困らせてばかりだな」と降谷さんが悲しそうに眉を下げるから「そ、そんなこと…っ、ちが、」と慌てて顔を上げる。何とか誤解を解こうと「降谷さんが怖いとか、降谷さんのせいで困ってるとか、そういうのじゃなくて…!だって、みんな、かっこよすぎて…〜〜ッちが、ちが…!なっ、なんでもないです!」と口走り、気付いた時には手遅れだった。
「へぇ、俺たちかっこいいんだ」と後ろから諸伏さんが私の肩にとん、と顎を乗せる。指先を絡めるように、ゆっくりと繋がれた手の主は当然、目の前の降谷さんで「僕らのこと、大好き…なんだったか?」と眦を下げて甘く微笑まれる。
「〜〜ッぁ、ぅぁ…っ、」と言葉を失ってはくはくと口を開いたり閉じたりさせてからぎゅうっと唇を噛み締める。どうしてこんなことになっているのか全く分からずに目が回る。「ま、まって…っ、」と羞恥に耐えかねてぎゅうっと目を瞑った私を助けてくれたのは盛大なため息を吐いた伊達さんだった。
「お前らいい加減にしろ」と諸伏さんと降谷さんの頭にゴンッとゲンコツを落とした伊達さんのお陰で二人の手が私から離れる。恐る恐る顔を上げれば反対側で萩原さんと松田さんも頭を押さえていて全員揃って伊達さんから正義の鉄槌が下されたことが分かった。
「だ、だてさぁぁん…」と半泣きで名前を呼べば「嫌だったら遠慮なく殴っていいからな」と優しく頭を撫でられて「俺からも、礼を言わせてくれ。本当にありがとう。お陰で、アイツを泣かせずに済んだんだ」と笑った伊達さんが首からぶら下げていたチェーンを引っ張る。
そこにはキラキラ輝く指輪があって「それ…!」と目を瞬かせれば「香澄ちゃんのお陰で、プロポーズも出来た」と照れくさそうに伊達さんが笑う。「〜〜ッお、おめでとうございます!よかった…!本当によかった…!」と嬉しくなって声が弾んだ私に「今度、ゆっくりお礼をさせてくれ。アイツも、香澄ちゃんに会いたがってるんだ」と伊達さんが柔らかく笑って頭をぽん、と撫でる。
「はい…!もちろん…!」と笑った私に伊達さんもくしゃりと笑った。「班長に全部持ってかれた」「ハギが調子乗るからだろ」「ゼロが変なことするから」「陣平ちゃんだってガッツリちょっかいかけたでしょ」「ヒロだって思い切りちょっかいかけてただろ」「お前ら全員やりすぎなんだよ。香澄ちゃん怖がらせてどうすんだ」「「はい、すみませんでした」」「伊達さんかっこいい…!」