その気持ちが分かっただけで

「はい、熱いから気をつけて」と降谷さんに渡されたカップを受け取って「ありがとうございます」とお礼を言う。ふわりといい香りがして思わずホッと息が漏れた。「班長はこっちで、お前らは勝手に取れ」「贔屓だ」「贔屓だ」「ズルい」「うるさい。早く取れ」とじゃれ合う五人を見て、またじわりと涙が滲む。

本当に、皆がこうして一緒にいられてよかった。でも、今って時間軸としてはどの辺りなんだろう。降谷さんのこと、みんな普通に外でも名前呼んでたし、工藤くんのニュースもいっぱい流れてるし、まさか原作終わってる…?

カップを両手で握り締めたまま、また一人で考え込んでいれば「また百面相してんのかよ」と松田さんの手が私の両頬をむぎゅりと潰す。う、と唇を突き出したまま「はにゃひへふははい…!」と訴えれば「今度は何考えてんだよ」とふっと笑った松田さんが首を傾げる。

「な、何でもないですよ…」とふいっと視線を逸らせば「何でもねぇ奴が、ンな百面相するかよ」と鼻で笑われてしまう。色々考えてはいるけれど、それを正直に全部喋るのはちょっと憚られる。

何も聞かないでくれ、と言わんばかりにそっぽを向いていれば「もう一度、確認させてくれ。この手紙を書いたのは、君で間違いないんだな?」と降谷さんがローテーブルの上に手紙を置く。

それに倣うように、他の四人もテーブルの上に手紙を置いた。恐る恐る覗き込んで、封筒に書かれた文字が間違いなく私自身のものであることを確認して、こくりと頷いた。

「この、手紙を書くに至った経緯を聞いても…いいか?」と恐る恐る尋ねた降谷さんに、一瞬視線を彷徨わせてから、こくりと頷いた。が、どこから話していいか分からない。この手紙を書いたのは物語の中で死んでしまうあなた達を助けたかったから。

つまり、あなた達は物語の中のキャラクターです、と言わなければならない。冷静に考えて頭のおかしいやつだと思われるに決まっている。全員が私の言葉を待っていて、視線が集まる。

沈黙に耐えられず、話すことも決まっていないのに「え…っと、ですね…その、」と話し出してしまって益々気まずい。ぎゅううっと手の中のカップを握り締めていれば「質問の仕方が、悪かったな。すまない」と降谷さんが困ったように笑う。

ふるふると首を横に振ってそんなことは無いとアピールすれば「答えられる範囲でいいから、僕たちの質問に答えてくれるか?」と優しい顔で尋ねられて肩の力が抜けた。こくりと頷いて「ごめん、なさい…」と謝れば「良くも悪くも直球勝負しか出来なくてねぇ、困っちゃうよねぇ」とけらけら笑った萩原さんが私の隣に腰を下ろす。

そのまま髪の毛を撫で付けるように私の頭をゆっくり撫でて「ごめんね。大丈夫。俺たちの命を救ってくれた、大事な大事な女神様のことが知りたいだけなんだ。だから、ちょっとだけ俺たちの話に付き合ってくれる?」と顔を覗き込むようにこてん、と首を傾げる。

「だいじな、めがみさま…」と萩原さんの言葉を繰り返せば「そ。俺たちの、女神様」とぱちりとウインクをしながら返された。様になりすぎてますね、本当に。「まず、改めて自己紹介をさせてくれ。君は知っているかもしれないけれど」と肩を竦めた降谷さんから順に名前を名乗られる。

私も同じように名前を名乗ると、優しい顔の萩原さんが「香澄ちゃんは、俺たちを助けたくて、この手紙を書いてくれたんだよね?」と首を傾げる。それにこくり、と頷いて返す。

「香澄ちゃんが知っている未来に、俺たちはいなかった。そして香澄ちゃんは、それを覆したかった」とゆっくり続けられた言葉にもこくり、と頷いて返す。「俺たちが死ぬことをどうして知ってたのか…は、聞いてもいい?」と聞かれてぴくりと肩が揺れた。

何かに縋るように握り締めた手が、指先が震える。喉がきゅうっと狭まって、声にならない息だけが口から零れ落ちる。「香澄ちゃん、答えられることだけでいいんだよ。嫌だったり、怖かったりするなら、言わなくて大丈夫」と震える手を萩原さんの大きな手が包む。

「ごめ、なさい…」と何度目かの謝罪に、萩原さんは首を横に振った。「じゃあ、最後に一つだけ聞かせて。どうして、俺たちにこの手紙を送ってくれたの?」と泣きそうな顔で私を見た萩原さんに驚くほど、スムーズに言葉が出た。

「好き、だったんです。大好きで、死んでほしくなくて、生きていて欲しくて、どうしようもないくらい大好きだった。無理って分かってた。届かないって分かってた。でも、物語みたいに、何もかもを飛び越えて、届いたらいいなって思ったら、書かずにはいられなかった」と言葉が溢れた。

嬉しかった。目の前で、彼らが生きている事実が。安堵の息を吐けば、頬が緩んだのが分かった。ふにゃりと笑って「ほんとに、よかった」と呟いた私に萩原さんが、皆が息を飲む。

ぽろ、と零れた涙を萩原さんが指先でそっと拭って「ありがとう」と綺麗な顔で微笑む。何一つ、大事なことは話せていないのに萩原さんたちは、もう、何も聞いてこなかった。
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