「家に行ってもダメだったのか?」と首を傾げた伊達に松田が「いや、多分もうあの家にはいねぇ」と舌打ちをする。頑なに幼女に会わせようとしない両親の態度は明らかに異常だったが、萩原たちが追及することは出来なかった。
「自宅は不在で音信不通。こんなのどう考えてもおかしいでしょ」と苛立たし気にタバコの煙を吐き出した萩原も舌打ちをする。「諸伏が言ってた団体との関わりってのはクロだろうな」と同じようにタバコの煙を吐き出した松田に「根拠は?」と伊達が尋ねる。
「香澄が言ってたんだよ。知らないおじさんが家に来てるってな」と答えた松田に「それだけじゃクロとは言えねぇだろ」と伊達が眉間に皺を寄せる。「それだけじゃない。あの日、香澄ちゃんを家まで送って行った時にトイレを借りるって体で中に入ったんだよ」と萩原が表情を強張らせる。
「その時に、決定的な証拠を見たってことか」と納得したような表情の伊達に「あぁ、しっかりな」と松田が返す。二人が幼女の家で見たのは一般家庭には到底あるはずの無い豪華な祭壇。そして、その祭壇に飾られた団体名と一枚の写真。
明らかに様子のおかしいそれを、母親は隠すことすらしなかった。その件については既に降谷たちに共有済みで、今は捜査の進展を待っている状況ではあるが、如何せん捜査の進捗が芳しくない。時間だけが過ぎていく現状に萩原と松田が苛立ちを隠せないのは仕方が無いと言えば仕方の無いことだった。
「香澄も、その祭壇には一切近付こうとしなかった。多分、本能で分かってんだろうな」と松田が苦々しい顔で呟いて、それに続くように萩原も口を開く。「あんなにお母さんっ子だった香澄ちゃんが、お母さんじゃなくて俺たちから離れようとしないのも、多分そういうことなんだと思う」と拳を握り締めた萩原の脳裏には、あの日帰っちゃダメ、と寂しそうに泣いていた幼女の姿があった。
「こんなことになるなら、無理やりにでも攫ってくれば良かったかなって、思ってるよ」と肩を竦めた萩原に、松田と伊達が視線を向ける。「分かってる。そんな事したら、俺が捕まるだけだって。でも、あの日泣いてた香澄ちゃんを置いてきちゃったこと、ずっと後悔してるんだよ」と萩原がため息と共に額を押さえる。
松田も、気持ちは同じだった。帰らないで、と足元に縋りついて来た幼女をまた今度な、と引き剥がしたことを後悔していた。あのまま抱き上げてしまえば良かった、と。降谷たちによって行われる捜査の進捗を待つことしかできないもどかしさに、萩原と松田のタバコの本数が増えていく。一刻も早く助け出したいと思う気持ちは三人共同じだった。