こっからはただのプライベート

事件が起きた現場を知った松田と伊達は思わず顔を見合わせた。「施設内を好き勝手動き回れる大義名分ができちまったな」と悪い顔で笑った伊達に「思う存分好き勝手捜査させてもらおうぜ」と松田も悪い顔で笑う。

施設内は想像通り不気味な雰囲気が漂っていた。松田も何度か顔を合わせたことがある幼女の両親もその場にいて、さすがに居心地が悪かったのか松田を見るなりすっと視線を逸らした。

そんな両親に「お久しぶりですね。先日自宅に伺ったら引っ越したと聞いて驚きました。香澄は元気にしてますか?」とにっこり笑った松田から何かを感じ取ったのか両親は言葉を詰まらせた。

伊達を筆頭に捜査一課の面々は初めて見る松田の余所行きの態度に目を見開いて驚いているけれど、松田がそれを気にする素振りは全くない。「詳しい話は、事件が解決したら…にしましょうや」と笑った松田の言葉はまるで死刑宣告。

ぎこちない動きで頷いた両親を横目に松田は「何ぼーっとしてんだよ。さっさと捜査始めんぞ」と怪訝な顔で捜査一課の面々を見た。「松田、お前…あんな言葉遣いできたんだな」と驚く伊達に鼻で笑った松田が「わざとだよ。香澄の両親の前であんな言葉遣いしたことねぇからな。俺が何かに気付いてるって思わせるのに丁度いいと思っただけだ」と返す。

その後、始まった捜査は松田と伊達の想像通り難航した。理由は簡単。団体側が捜査に対して非協力的だったから。施設内を好き勝手に移動するのは許されず、トイレに行くにも団体の人間が着いてくる。

事件に関わりのある証拠を隠蔽していると思われてもおかしくない…というよりも疑われたいのかと思うほどに徹底した隠しようだった。どうしても調べたいのなら令状を持ってこいと言い張る団体のトップに舌打ちをした松田はちらりと両親に視線を移す。

「分かりました。捜査は後日、改めてさせてもらうことにして、こっからはただのプライベートだ。おい、香澄はどこだ」と言い切った松田に両親はびくりと肩を揺らして、まるで指示を仰ぐように団体のトップに視線を向けた。

「あぁ、あの子ですか。今日は体調を崩しておりましてね。会わせてあげたいのは山々なんですが…申し訳ありません」と笑った団体のトップをじっと見つめた松田だったが「…そっすか。んじゃ、元気になったらまた遊びに行こうって、香澄に伝えてください」とあっさり引き下がった。

驚く伊達の腕を引いて「行くぞ。ここは一旦引いて、アイツらに話を通す。アイツらなら、令状の一枚や二枚、簡単に準備できるだろ」と笑った松田の目は全く笑っていなかった。目に宿るのは今にも噴火してしまいそうなほどの怒りの炎。

「…なるほどな。そう言うことか」と納得したように笑った伊達がポケットからスマホを取り出す。宛先は勿論萩原、諸伏、降谷の三人。「今日から当分寝られなさそうだな」と笑った伊達に「上等だ。香澄を助けられるなら三徹でも四徹でもいくらでもしてやるよ」と松田が声を上げて笑った。
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