こんくらいでしぬかよ

香澄ちゃんの体がぐらりと傾いて、それを追いかけるように松田が手を伸ばす。「ッ香澄!!!」って響いた松田の声と、二人分の体重が転がり落ちる音と、周囲の悲鳴が響き渡る。

「香澄ちゃん…!陣平ちゃん…!」って慌てて階段を駆け下りた萩原の目に飛び込んできたのは松田の額から流れる血。

香澄ちゃんは松田が頭を抱えるように抱き締めていたおかけで「い…っ、」って痛みには呻くものの意識はあるようで「香澄ちゃん、大丈夫?頭打ってない?」って萩原が尋ねれば「わ、たしはへいき、」って眉間に皺を寄せてから、自分と同じように倒れ込む松田を見てハッとする。

「陣平、ごめん、だいじょう…」って途中で言葉を詰まらせた香澄ちゃんが目を見開く。「じ、んぺ…、ねぇ、うそ、おきて…やだよ、」って震える手で香澄ちゃんが松田の肩を揺さぶろうとするから「ダメだ、香澄ちゃん。頭を打ってるから、揺らしちゃダメだよ」って萩原がその手を掴む。

決して多い訳ではないけれど、香澄ちゃんを絶望に突き落とすには充分すぎる赤色。「やだ、やだぁ…!やだ、じんぺ…っおきて、やだ、」って泣きじゃくって松田に手を伸ばそうとする香澄ちゃんを押さえ込んで「大丈夫、大丈夫だから…!香澄ちゃん落ち着いて…!」って萩原が何度も声をかける。

「松田は死んでない!!!生きてるから!!!大丈夫!!!」って大きな声で萩原に肩を揺さぶられてハッとする。「ぁ…っ、はぎ、くん…っごめ、ごめんなさい…っ、ごめんなさい…!」って我に返って今度はぽろぽろ泣き出した香澄ちゃんの頭をそっと撫でて「うん。怖かったよね。大丈夫、大丈夫だよ。松田はこんなんじゃ死なないから、大丈夫。一緒に病院行こうね」って慰めていれば松田が小さく呻く。

すぐに気付いた萩原が「ッ陣平ちゃん!!!」って声をかける横で香澄ちゃんは目を見開いて固まったまま動けない。「は、ぎ…、香澄は、」って言う松田に「大丈夫、陣平ちゃんが庇ったおかげで無事だよ」って萩原が返せば、視線をうろうろ彷徨わせて香澄ちゃんを探してから「ふは、なに…ないてんだよ、ばか」って香澄ちゃんに向かって手を伸ばすから慌ててその手をぎゅっと握る。

「ごめん、陣平…っごめん、わたしのせいで」って泣きじゃくる香澄ちゃんに「おまえの、せいじゃねぇ…わるいのは、ぜんぶ、はんにんだ」ってゆっくりと言葉を紡ぐ松田が視線を向けたのは階段の上。

佐藤や高木に取り押さえられている男が、先程香澄ちゃんを階段から突き飛ばした張本人だった。「でも、でも…っ、陣平、ち…、でてるっ…!」って泣く香澄ちゃんに「ばーか、こんくらいでしぬかよ」って松田が笑う。

その後も意識はしっかりしてて病院で治療を受けて、きちんと無事が確認される。頭に包帯を巻いて「よぉ」って待合室に戻ってきた松田を見て「〜〜ッばか!!!」って香澄ちゃんが泣きながら腕の中に飛び込む。

萩原も「ったく、肝冷えたぜ…マジで」って苦笑いで松田の傍に行くから「悪ィ悪ィ、心配かけたな」って香澄ちゃんを抱き締めて背中を撫でながら笑う松田がいる。これが愛の力ってやつかな。
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