今は辞めちゃった

「お願いします。合宿中だけでいいんです。というか食事だけ作って欲しいんです。僕のことを助けると思ってお願いします」って黒子に言われて「…はぁ?」って紬が首を傾げる。

かくかくしかじか、事情を聞いてこれでもかという程に眉間に皺を寄せた紬に黒子が「マネージャー業は一切しなくて良いんです。本当に料理だけ、何とかお願いできませんか」って土下座の勢いで頼み込まれて一度は断ったものの、翌日バスケ部総出で押しかけてきて白旗。

「はぁ…」ってため息を吐きながら夏合宿に着いてきて、食事の準備だけとは言われたものの結局いつの間にやらマネージャー業を手伝ってしまって「何出しゃばってんだ私…!」って頭を抱える。

でも紬のマネージャー業は帝光中で鍛えられてるから「ドリンクの補充とかタオルの交換とか、すげーな。タイミングばっちりすぎるわ」「しかも良く気が利く!めちゃめちゃ周り見えてない!?」「スコアも完璧だし字も綺麗!ついでに何か的確なコメントまで書かれてる!?」「何で黒子一緒にバスケ部やろうって言わなかったんだよ!」ってべた褒め。

「紬さんが誠凛にいるの知らなかったんです」「だとしても誘えよ〜〜!」って先輩達に絡まれる黒子を横目に相田も「合宿だけと言わずに、どう?正式にバスケ部入ってみない?」って誘うんだけど「…いえ、遠慮しておきます。私、ボトル洗ってきますね」ってするりと逃げられるし、その様子を見ていた黒子も悲しそうな顔をしてるから何かあったんだなって一発で分かってしまう。

そして翌日、中々食事にやって来ない黒子と火神を探しに来たら緑間とバッタリ会ってしまって紬が目を見開く。緑間も同じように驚いた顔をしてから、その驚いた顔を隠すようにカチャリとメガネを上げる。

「本当に、誠凛に進学したのか」「…本当にって、どういう意味」「黄瀬が言っていたのだよ。お前が、誠凛に入ったと」「あっそ」「にしても、マネージャーはやってないのでは無かったのか」「臨時よ、臨時。もう、バスケ部はやらない」って紬がそっぽを向く。

黄瀬がチクった、は本当だったらしい。私のジャージ姿を見て眉をひそめた緑間にひらひらと手を振って返す。私の言葉にぐっと言葉に詰まった様子を見せた緑間が何かを言おうとするけれど、後ろから声をかけてきた高尾によって遮られる。

「あれ、誠凛ってマネージャーいたっけ?はじめまして〜!秀徳の高尾でっす!」「おい高尾」「え、なになに?真ちゃんもしかしてナンパ中だった?」「バカを言うな。中学の同級生だ」「えっじゃあ真ちゃんと黒子と同じ帝光出身!?え、バスケ部のマネージャーとか?」って何も知らない高尾の言葉に緑間の空気がほんの一瞬張り詰める。

その一瞬を見逃さなかった高尾が「俺なんかマズった?」と首を傾げるけれど、なんて事無さそうに笑って「そ。中学の時はね。今は辞めちゃった」と笑う紬がいるから高尾は一安心。

「辞めちゃったんだ。ま、確かに大変だもんな〜勉強する時間も遊ぶ時間も無くなっちまうしな」「そうなの。せっかく高校生になったのに遊びに行けないのやだなって思ってさ。あはは」ってほとんど話したことが無い高尾ですら、嘘だと分かる話し方。

下手くそな笑顔も、ありふれた理由も、全部本心では無いのだと、緑間はもちろんの事だが、高尾も感じ取っていた。またね、と手を振って帰って行く背中を見送りながら高尾が口を開いた。

「なぁ、真ちゃん。あの子、なんか訳アリ?」「…お前には、関係ないのだよ」「ふ〜ん、あっそ」ってふい、とそっぽを向いた緑間の背中を見つめながら頭の後ろで手を組んだ高尾だったが、苦しそうな泣きそうな、悲しげな顔をしていた緑間に、心の中で「そんな顔するくらいなら、ちゃんと話せばいいのに」と思わずにはいられなかった。
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