何も変えられないんだよ

合宿も無事に終了し、やってきたのは体育館。今日この場所で行われるのは海常vs桐皇の試合。見るつもりはなかったのだが、流れでここまで来てしまった。とは言え、黄瀬からうるさいくらいに試合を見に来てくれと言われていた紬としては丁度良かったのかもしれない。

自分が楽しいだけ、自分たちが気持ちいいだけ。そんなプレースタイルだった黄瀬が、チームのために、自分のために、必死になって戦っている姿を見て、紬の目から涙が零れた。どうして泣いているのか、どうしてこんなにも胸が痛いのか、紬自身も分からない。

「えっ、紬ちゃんなんで泣いて…!?」って伊月が驚いて声を上げるから、全員の目が紬に向いてどうしたんだと皆が狼狽えるから「ちょっと、席外します」って目元を隠すように俯いた紬が立ち上がる。

着いていこうとする誠凛の面々を相田が「放っておいてほしい時だってあるのよ。馬鹿ね」って止めるから、皆渋々腰を下ろす。外の風にあたって、そろそろ戻ろうかと体育館へ足を向けた紬だったけどばったり黄瀬と会ってしまう。

「泣いた、んスか?っ、もしかして誰かに泣かされたんスか!?」って目を見開いて駆け寄ってくる黄瀬に「誰のせいでもないわよ。ていうか、早く戻りなさいよ」って嫌そうに眉間に皺を寄せるから、黄瀬の目が寂しそうに揺れる。

「俺、勝つっスよ」って言ってくる黄瀬に「そう。がんばって」って返して、黄瀬の方をちらりとも見ずに背中を向ける。誠凛の皆と一緒に試合を見る気にはなれなくて、立ったままぼんやりと試合を見つめる。

点が入って、攻守が変わって。自分たちのチームを勝たせるために、皆が必死にボールを追いかける。バスケットボールとは、本来こういうものだったなと思いながら試合の行く末を見届ける。試合は、青峰率いる桐皇の勝利。

初めて見る黄瀬と青峰の姿に「あんなに、必死にボール、追いかけられるんだ」って寂しそうに呟いて、ポケットからスマホを取り出す。『先に帰る』とだけ黒子にメッセージを送って体育館を後にした紬のことなんて知りもしない黄瀬は帰り際、あわよくば紬に会えたりしないものかと探すけれど見つかるはずもない。

『負けちゃったっス』と紬に送ったメッセージは、翌日になっても既読にならず電話も繋がらない。自室で一人、黄瀬からのメッセージを見た紬だったけど、そのメッセージを開くことなくスマホの電源を落として「やっぱり、持たざる者は何もできないし、何も変えられないんだよ」って呟いて、一人静かに涙を流した。
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