弟が小さくなって帰ってきた

バチバチと窓に当たる雨粒の音が徐々に大きくなって、ふと顔を上げる。窓の外は雨模様。先ほどまで明るかったはずの室内は、真っ暗になっていてデスクのランプだけが煌々と光っていた。固まってしまった背中の筋肉をぐぐっと伸ばしていた私は、玄関から聞こえてきた大きな音に思わず首を傾げた。

「もう帰って来たの…?」

幼馴染の蘭ちゃんと一緒にデートに行った弟の早すぎる帰宅は想定外だった。てっきり夜ご飯は一緒に食べてくるものだと思っていたから何も用意していない。冷蔵庫に何か入っていただろうか、と思いながら1階へと降りれば書斎から話し声が聞こえてくる。

「新一?もう帰って来たの?」

雨水で汚れた廊下を見てため息を吐いてから書斎の扉を開けて中に入る。てっきり蘭ちゃんと帰って来たのかと思ったが、書斎にいたのは阿笠博士だけだった。

「博士?あれ、新一は?」
「あ、あー…いや、その…」
「何か私に見つかっちゃまずいことでもしたのかしら?可愛い可愛い弟様?」

ちらりと父のデスクの方を見てから、私を見て視線を泳がせた博士を見て思わずため息を吐く。なるほど、デスクの陰に新一が隠れている訳ね。わざわざ博士を家に呼んで私から逃げようとしている時点で怪しいに決まってる。一体どんな悪いことをしたのかしら、と思いながらデスクの陰を覗き込んで目を見開いた。

「何をどう恰好つけたら、そんな可愛いことになっちゃうの?」
「格好つけた訳じゃねぇよ!!…あっ、」
「はぁ…とりあえず着替えて。そんなずぶ濡れのままあちこち行かないで」

好きな子と遊園地デートに行ったはずの弟が、小さくなって帰ってくるミラクルな状況に首を傾げずにはいられない。明らかに顔を引きつらせてマズい、と言わんばかりの顔をする新一を見てため息を吐いた。洗面所からタオルを持ってきて新一の頭に被せて、2階のクローゼットから新一の子供の時の服を引っぱり出す。

「新一、ちゃんと拭いた?これ、とりあえず着てみて。多分大丈夫だと思うけど」

バツの悪そうな顔で2階へと上がって来た新一が、何か言いたげに口を開けたり閉じたりさせる。先ほど引っぱり出したばかりの服を新一の体に当てて、まあ大丈夫だろうと手渡せば、新一は困ったような顔で洋服を受け取る。きゅっと唇を結んで私を見た新一の頭をくしゃりと撫でて、首にかけられていたタオルをするりと取る。

「とりあえず着替えておいで。体冷えてるだろうから、紅茶入れて待ってるね」
「……おう」

事情は分からないけれど、ろくでもないことに首を突っ込んだことは想像に容易かった。そして、新一自身も困惑していて、恐らく後悔している。怒ったり咎めたりするのは逆効果になるだろうけれど、事情を聞かない訳にはいかない。いつも通りに笑った私を見て、新一はホッとしたように表情を緩ませた。
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