これは姉を心配させた罰である

聞けば、蘭ちゃんとの遊園地デート中に事件に遭遇。帰宅間際に黒ずくめの男が行っている怪しげな取引現場を目撃し、背後からの襲撃に気付かずに頭を殴られ、怪しげな薬を飲まされた…というのが小さくなってしまった経緯らしい。一通り話は聞いたものの私が言える言葉はたった一つ。

「自業自得じゃない」

額を押さえてため息を吐いた私の言葉に、弟は言葉を詰まらせた。昔から事件と聞けば首を突っ込まずにはいられない暴れ馬だった新一が、何らかの事件に巻き込まれることは予想していたけれど、まさか小さくなるなんて思ってもいなかった。

新一が勝手に事件に首を突っ込んで解決する分には好きにしたらいいと思っているけれど、さすがにこの状況になってしまったら父と母に話さない訳にはいかない。

「父さんと母さんには私から連絡しておくからね」
「ッ、姉さん!……これは、父さんと母さんには言わないでくれ」
「……どうして?」

ため息混じりにスマホを取り出した私を見て、新一が目を見開く。大きな声で私を止めた新一を見れば、険しい顔で唇を噛み締めていて、父と母への連絡に納得していないのは一目瞭然だった。

新一の気持ちを尊重してあげたい気持ちはある。けれど、それとこれとは話が別だ。納得できる正当な理由が無い限り、新一の希望を叶えてあげることはできない。手に持ったスマホをデスクの上に置いて腕を組み、新一をまっすぐ見つめ返せば、視線をうろうろと彷徨わせてからゆっくりと口を開く。

「……俺の、事件だ。俺が撒いた種だ。俺が、俺の手で解決する。父さんと母さんには俺から話す。だから、姉さんからは何も言わないでくれ」

拳を握り締めた新一の表情に嘘は無かった。これが探偵の性であり、新一のプライドなのだろう。それでも、可愛い弟の身を案じる姉の気持ちも分かって欲しい。知らず知らずの内に眉間に皺を寄せていた私に、新一がニヤリと悪戯っ子のような笑みを浮かべる。

「姉さんだっていつも言ってるだろ。やるなら最後まで徹底的にやれって」
「……分かった。好きにしなさい」

真っ直ぐな新一の目に揺らぎは無い。これはどう頑張っても引かないな、と諦めてため息を吐き、返事をする。パッと表情を輝かせた新一に肩を竦めた私は取り出したスマホを再びポケットにしまう。……が、父と母に伝えないとは一言も言っていない。好きにしなさい、と言っただけだ。

サンキュー!姉さん!とご機嫌なところ大変申し訳ないが、私が責任を持って父と母には伝えさせてもらうことにする。私から聞いたとバレなければいいだけの話だ。私がそんなことを考えているとは、ほんの少しも考えていない新一が博士と話し込んでいる姿を見て、ふと首を傾げる。

「……ところで新一、蘭ちゃんは?」
「あ、ヤッベェ…!連絡するの忘れてた…!」

私の言葉に顔を引き攣らせた新一がポケットからスマホを出した瞬間だった。響き渡ったチャイムの音と、玄関が開く音。新一を呼ぶ蘭ちゃんの声が聞こえてきて、私はジトリと新一を見た。

「どうするの?」
「ど、どうするって…上手く誤魔化してくれよ、姉さん!」
「はぁ…俺の事件だ、とかカッコつけたのに?」
「別にカッコつけてねぇだろ!」

パチリと両手を合わせてデスクの陰に隠れてしまった弟をジト目で見ながら書斎を出て、玄関に顔を出す。私を見てパッと表情を明るくした蘭ちゃんだったけど、すぐに悲しげに眉を下げる。

「お姉ちゃん…新一、帰ってきた…?」
「私がお客さんとお話してる間に帰ってきて、そのまま出かけちゃったみたいで…私も会えてないの。ごめんね」

新一の話から察するに、恐らく蘭ちゃんは遊園地に置き去りにされている。待てども新一は戻ってこなくて、仕方なく帰ってきた…と言った所だろう。目に入れても痛くない可愛い弟ではあるけれど、こればっかりは後で灸を据えないといけない。蘭ちゃんは可愛い弟の未来のお嫁さんなのだから、当然私にとっては可愛い妹になる。

「外寒かったでしょ。紅茶入れるから、あったまっていきな」
「うん…お姉ちゃん、ありがとう」

私よりも少し高い位置にある頭をぽんぽんと撫でてあげれば、蘭ちゃんがふにゃりと頬を緩めて笑う。私の後ろを着いてくる蘭ちゃんに意識を向けながら、今頃書斎で大慌てであろう新一を思い浮かべて小さく笑う。

「準備してから行くから、書斎で待ってて」
「あっ、手伝うよ!」
「いいのいいの。体冷えてるだろうし、あったまってて」

キッチンへと足を向けながら書斎の方を指差せば、蘭ちゃんは慌てて私の方へと駆け寄ってくる。頭を撫でて、もう一度先に行っているようにと告げれば、申し訳なさそうな顔をしながらも嬉しそうに笑った蘭ちゃんが書斎の奥へと消えていく。

「自分で蒔いた種くらい、自分で何とかできないとね」

今頃書斎で蘭ちゃんと鉢合わせて大慌てであろう新一を思い浮かべて堪らず肩が揺れてしまう。ふつふつと沸騰するお湯を見て、思っていたよりもずっと新一への怒りが湧いていたんだなと他人事のように思った。
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