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✐ギョクレン・ウー…水国第二皇子。スイレンの双子の弟。気性が荒く、言葉遣いが悪いが根は優しい。
「兄貴、ただいま。女、起きたか?」
青年が外出から帰って来て、兄であるスイレンに姫乃の様子を聞きに来たのだった。
ここまで来るまでに、神子の存在を部下達から聞いたのだろう。
「ギョクレン、お帰り。さっきまで岸部を追いかけ回してたけど、急に糸が切れたように眠ったよ」
ギョクレン・ウーはスイレンと双子であり、全く同じ顔をしている。
だが少し違うのは、右目に黒の眼帯をしていた。
水国第二皇子であり、スイレンを心から尊敬している。
気性や言葉遣いが荒いが、家族や仲間思いの優しい性格である。
ベッドに横になっている綺麗な少女をギョクレンが見た。
「やっぱ神子ってのは女かよ。兄貴も面倒くせぇもんのお守り、大変だよな」
舌打ちをし、忌々しいものを見るような目で姫乃を見下ろす。
すやすやと呑気にいびきをかいて寝ている姿が、またカンに触るのだった。
スイレンの苦労も知らず、のうのうと過ごしやがって、と。
「まぁ、あながち間違いじゃないよね。けど、岸部が保護してくれたから良かったけど、この子は色んな意味で危険だよ」
ふうっと小さな溜息をつく。
相当疲れたのだろう。
今帰って来たギョクレンにすら、疲弊しているのがわかった。
「大変って、泣きわめいたり、ヒステリックになったり、暴れたりか?女って生き物は俺達と違って、色々面倒くせぇって親父が昔、言うてたからよ…。何か、体の造りが違うから、どうのこうの、だったか?」
昔に召喚された神子もまた女性だったが、ここに来るなり警戒して、泣き叫び、言語も通じなかったせいで保護してくれた人達に危害を加えたと言う。
伝説として引き継がれ、神子を見つけたら細心の注意をし、丁寧に扱い保護をしろと聞かされてきた。
だからこそ、今のこの状況はギョクレンからしたら、心底面倒臭いのだ。
「あ、…ちょっと今回のはそう言う大変じゃないんだけどね…」
スイレンは言いにくそうにして、苦笑いする。
それを不思議そうに見て、言いたくないなら別に良いかと、ギョクレンは風呂に入って汚れを落とす事にしたのだった。
スイレンの事だから、面倒事は避けるだろうが、少しばかり気になってしまう。
自分は何でも割り切れるし、自分勝手に生きれるタイプだ。
けど、スイレンは違う。
優しくて、情があって、頭がとても良い。
その為に、自分が見れない世界を見て、何手先も考え行動している。
どのような時でも選択肢をたくさん用意して、自分達にとって有利になる手札は一枚でも多く残しておきたい。
その為には自らが犠牲になっても構わない、そんな性格だからこそ、心配でならなかった。
「……」
浴室は一人で入るにはとても広く、水の国だけあって、幻想的な世界が視界一面に広がっていた。
彫刻で作られた虎の口からお湯が流れ、水音が響き渡っている。
ギョクレンにとって入浴はストレス解消のひとつだ。
将軍として日々かかす事なく部下に武術を教え、自らの鍛錬も決して怠らず、切磋琢磨しながら己だけではなく全ての人間を鍛え抜く。
その肉体はスイレンよりも引き締まり、筋肉質で、彫刻のようである。
広過ぎる湯船に浸かり、目を瞑って疲れを癒した。
この為に生きていると言っても過言はないだろう。
固まった筋肉がほぐされるような感覚がわかった。
とても心地良く、いつしか頭が船を漕ぎ始める。
水音だけが響き渡り、それが子守唄のように思えたその時、バシャンと湯船に大きな物が落ちたような音と共に、ズシンと自らの体に重みがかかったのだった。
「うわっ…ぶっ!?」
自分ではない何者かの声がし、それが湯船に沈んで行く。
ちょうどギョクレンの膝に跨がるように落ちてきた人間らしきものを掴み、近くに置いてある武器をすぐさま手に取った。
「何者だ!?」
掴んだ物がまだ線が細く、軽い為、重みだけで子供であると判断出来た。
だが刺客である事には変わりなく、子供だろうが何だろうが自分の命を狙ったのが運の月。
ここで死ぬ事は免れないだろう。
「んぐっ!?…げほっ、げっ…!!?」
湯を飲んだような嚥下音と共に、咳で吐き出されるそれ。
とんだ間抜けな刺客がいるものだなと一瞬だけ嘲笑う。
苦しそうにする人間の着物を掴み、皮膚の薄い首筋に短剣を突き付けた。
「お前、どこの者だ?この俺に何の用だ?」
すっと細められた瞳は殺意に包まれ、ギョクレンの上に跨がる子供らしき人間に問う。
「っ……!?…え!?は!?え……!!?」
一体何が起きたのか状況のわからない声を発し、ギョクレンはその者をまじまじと凝視した。
「……やはり子供か…」
そう言ってはいるが、短剣が首筋に食い込み、切れた場所から血が流れる。
ぴちゃんと音を立てて湯船に落ち、赤い波紋を作った。
「ひぃ…痛っ…!!?つか、ここっ、どこだよ!?」
子供が驚愕したように、真っ青な顔をして叫んだ。
自らの意思で訪れた筈なのに、まるで連れて来られたみたいなリアクションにすら呆れてしまう。
だがその読みは間違っていた。
何故なら、ギョクレンの上に跨がるようにいたのは、先程まで珠里によって色々玩具にされていたもう一人の神子、竜也だったからだ。
(え、……は!?さっきまて皇子様といたのに、何で俺、風呂場にいるんだよ!?しかも目の前にいる人、顔、めちゃくちゃ綺麗たけど、凄く怖いし、首がめちゃくちゃ痛いし、殺されそうなんだけど!?)
ついに姫乃のいる国に来た竜也。やっと二人が出会う瞬間が来るのだろうな。ようやく駒は揃った(笑)やっと本来の道に進むと思います。これから姫乃がどんどん傍観して盛り上げる事でしょう。邪魔にならないよう、頑張っていきます(笑)
2024.09.30
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