10
バタバタと新が走ってる中で、手首を捕まれる。
「嫌だ、離せっ!!!」
怒鳴りつけて振り替えれば、そこには思わぬ人物がおり、絶句した。
己梛だと思い込んでいたからこそ、感情むき出しで怒鳴りつけた手前、まさかの可梛である事にぴしりと固まる。
「新…?」
ただならぬ新の剣幕に驚きを隠せない可梛。
新を見つけ、声をかけるも聞こえていない様子だったから、心配してここまで追って来たのだ。
その走る様子がいつもと違くて、不安にかられての行動である。
こんな感情むき出しの新は初めてであり、可梛の目が大きく見開く。
それに気づいた新が、申し訳なさそうに謝罪した。
「あ、うん…僕は大丈夫だけど、新の方こそ平気…?何かあったんじゃないの…?」
本当に心配そうにする姿に、新の心の刺が取れていく。
「っ…かなぁ…」
目元が赤いのが気になってたし、目がいつもより潤んでいたから、まさかとは思っていたが、本当に泣いていたのだろう。
ボロボロと涙を流し、新は可梛の方に近寄って行く。
それを優しい仕草で受け止め、隙間を埋めるように抱き締める。
「っ、俺…己梛に…」
その言葉を聞いた瞬間、可梛がぴたりと止まる。
だが新は気付いていないのか、その先を続けていく。
「もう己梛がわからない…」
ぎゅっと新が可梛の体を抱き締め返す。
それを可梛は離さんとばかりに強く抱き締めた。
そして顔が恐ろしい程に無表情だったのだ。
「あいつに会ったの?何かされた…?」
可梛の様子等気付かず、新は首を左右に振って否定する。
「俺が勝手に…我慢、出来なかった…」
「うん、そうなんだね。けど、新はいつも凄く頑張ってるの、僕は知ってるよ」
大丈夫、そう言って、頭を撫でる。
「可梛を好きになってたら、良かった…」
その言葉に可梛の瞳が大きく揺れ動く。
そして新ははっとして、慌てて可梛から距離をとった。
「っ、ごめん!…俺、凄い無神経なこ…」
言葉を続ける前に、新の唇は奪われる。
ちゅっと触れるだけのキス。
まるで慰めるような優しくて、切ない口づけ。
「うん、なら、僕を好きになってよ。大切にするから、泣かせないし、ひとりにさせないよ。僕はずっと新一筋だからね」
まるで喧嘩の理由がわかってるかの言い方に、新は驚きを超えて、納得してしまう。
可梛はいつでも傍にいてくれて、自分の伝えたい事を理解してくれる。
時に全く聞いてくれない時はあるけど、それは冗談と言うか、いつものパターンだ。
だけど、こうした大切な場面では絶対に間違わない。
まるで心が読めるかのように新の心に入ってくるのだ。
「新、好きだよ」
そう言って今までにない真剣な表情をする可梛。
いつも優しく微笑んでるか、苦笑いしてるかしかないのに、こんな顔は初めてだった。
どきんと胸が大きく高鳴り、あれっと思う。
可梛は元々凄く格好良かったけど、こんなに男前だっただろうか。
そして見つめてくる瞳がとても真剣でいて、逸らせない。
「あいつが好きなのも知ってる。だけど、僕の事も少しで良いから、意識して欲しいな」
可梛に両肩を捕まれ、ゆっくりと近付いてくる。
それを嫌だと思わないのは何でなのか。
そして、目が離せない。
「このまましちゃうけど、いい?」
再びキスをする。
ちゅっと音を慣らし、何度も触れてくる。
「んっ…」
新が逃げないのを良い事に、壁側へ追い詰める。
そして、何度も口づけをし、その度に好きと口にしていく。
甘い雰囲気に、新がゆっくりと唇を開いた。
それは舌を入れて良いのサインだと思い、可梛が目元を赤らめ、ぐっと近づく。
そして、勢いよく舌を入れて、先程までの優しいキスは違い、荒々しいものへと変化していった。
「ふっ、んっ…、はっ、んんっ…」
新から漏れる甘い声に、可梛の胸が高鳴る。
そして、下半身にずくりとくる熱。
許された。
初めて新から口づけをして良いと行動で示されたのだ。
有頂天にならずにいられない。
感情が制御出来なかった。
「んむっ…、つ…、ふぁ…」
舌同士が絡まり、逃げないように自分よりも小さな体を壁に縫い付ける。
気持ち良い。
新の唇や舌の感触がこんなに近く感じるのは初めてだ。
「っ、はぁ…、待っ…て…」
息を吸う為に可梛の唇から逃げる。
「っ、ダメだよっ…もっと…したい」
それを逃さないと再び唇を塞ぐ。
ぎゅっと新は目を瞑り、必死に可梛の舌に絡ませる。
鼻から息をし、ふるふると震える愛しい人を見て、可梛の心が満たされた。
(可愛い。可愛い。新、凄く可愛いよ、好きだよ、好き過ぎて堪らない。このまま溶けてしまいたいよ…)
2026.09.21
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