腐男子
朝起きて、鏡に映る自分を見る。
すると昨日、篠がつけたであろうキスマークが数ヶ所首筋にハッキリと痕が残っていた。
「おいおいおい…、最近のガキはマセてんな…。こちとら学生の頃なんか、付き合った事もなければ、浮いた話ひとつないつぅんだよ…」
結愛は何だか情けなくなってしまった。
現実世界ではほとんどモテた経験もなければ、付き合った人数も片手で数える程度しかおらず、寂しい独身生活を送っていたからだ。
なのに、ゲームの世界に来てから、こんな熱烈なアピールされるだなんて、と。
とりあえず息苦しいがワイシャツの第一ボタンはしっかりと留め、ネクタイも上まであげるしかなさそうだ。
ただでさえ平凡なのに、校則通りにすれば平凡度に磨きがかかる。
そして今日からニューアイテム、風紀の腕章をつけなければならない。
このド派手な赤と金であしらわれた物を見れば、皆が背筋を伸ばすらしいのだが、この布切れひとつにそんな威力あるのかと疑問すら抱く。
「…いつまでそうしてんだ、行くぞ…」
ほとりの一声にて、校舎へ向かったのだった。
行き交う生徒達が何故か頬を赤らめ、こちらを見ている。
正確にはほとりを見て、なのだが。
そして隣にいる結愛を見れば、何やら残念そうな顔をする。
やはり風紀副委員長と言う肩書きと、ほとりの外見が相乗効果となっているのは間違いない。
「はいはいは〜い、そこの風紀お二人さん」
飛び抜けて明るい声がし、結愛達は歩みを止める。
シャッター音と共に、マッシュルームヘアの生徒が目の前に現れたのだ。
「風紀副委員長の御子神くんと、平凡やのに風紀になれた本郷くん!こりゃ、ビックニュースやで!!」
糸目でソバカスがあり、細みの生徒が二人の周りを動き回りながら、パシャパシャと写真を撮っていた。
「新聞部三年の美作美樹言うねん。
みんなにはミッキーって呼ばれとるから、今後ともよろしゅう!」
「……」
ほとりは無言で睨みつけ、結愛は小さくお辞儀をする。
「風紀の犬神くんとも連携して、悪事を裁いてますよってからに。これからもぎょうさん、お二方の写真を撮らせてもろて、稼がせてもらいますわ〜」
元気有り余る話し方と、微かに感じる胡散臭さ。
あまりにも癖がありすぎて結愛はドン引きしていた。
「平凡くん、その嫌そうな顔最高やで〜。何や、ごっつ興奮するやん!ワイ、見る専やったけど君ならイケんでっ、いつでも相手になったるわ〜」
シャッター音がなかなか鳴りやまない。
そして何がイケるのか、全くわからない。
いや、考えたくないのだ。
聞いてはならない言葉を発していたので、結愛は丁重にスルーさせてもらった。
「平凡受、最高やな!御子神くん、ホンマ格好えぇ〜、惚れ惚れしてまうやないのっ!一匹狼不良×平凡、グッと来るわ〜」
もう何を言ってるのかすらわからない。
美樹の言葉は結愛達からしたら、宇宙語に聞こえるのだろう。
シャッターを切る音と、フラッシュの光が眩しくて、目が開かない。
それはほとりも同じようで、腕で目元を隠していた。
あまりにも癖が強く、美樹のやりたいようにさせてしまっていたのだ。
パンチありすぎて、どうにも出来ないでいた。
「はぁぁ、平凡くん、ホンマ可愛ぇでっ!君は逸材やん!何かあったら、必ず新聞部に来てや〜。平凡くんならサービスしたるわ〜」
そう鼻息荒く言いたい事だけ言って、颯爽と去って行ったのだ。
まるで嵐が去ったような静けさに辺りは包まれた。
「え、な、何なんだったんだ…?」
結愛の言葉に、ほとりが面倒臭そうに溜め息をついた。
「…あの人は委員長のダチだ…。昔から、風紀と新聞部は協定を結んでて、制裁や暴行事件を未然に防いだり、現行犯で処罰してる…。だから、その代わりに好きなだけ写真を撮って良い契約を結んでる…」
ちゃんと説明してくれた事にもだが、ほとりがこんなに長い言葉を話した事に結愛は感動を覚える。
普段はツンツンしてる癖に、たまにデレが発生する、ツンデレだと結愛は頬を緩めた。
「……見んじゃねぇ…」
その視線があまりにも気持ち悪かったのだろう。
ほとりは舌打ちをし、校舎の中へ入って行く。
それを結愛が駆け足で追いかけるのだった。
風紀と新聞部の協定は素晴らしいが、写真を撮られるのは精神的にくる。
2024.08.29
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