揺れる気持ち
教室へ着くと、篠が結愛を見て頬を赤らめる。
それに反応するように、結愛も同じく頬を赤らめた。
二人の間に甘い空気が流れ、周りの傍観者な生徒達が微笑ましいものを見るかのように見守っている。
中には明らかに結愛への敵意を表す者もいたが、篠にやっと訪れた春を祝う者の方が圧倒的に多かったのだ。
「本郷、おはよう」
「あ、う…、おはよ」
初々しい二人の会話に、教室内がピンク色に包まれた。
「昨日はその…」
篠が言いかけると、結愛は周りの生徒達をぐるりと見渡して、ここでは話せないと篠の手首を掴んで教室の外へと出た。
それには教室内から黄色い悲鳴と、二人を応援する声援が響き渡っていたのだ。
「視聴覚室に行こう」
結愛はそう一言伝え、前回とは反対に篠を連れて行く。
触れられた所からジンジンと熱を帯び、篠の心臓がバクバクと音を立てる。
自分はこんなにも結愛を好きになってしまった。
姿を見るだけで、顔や目を見て話すだけで、心臓が歓喜しているのがわかる。
そして、触られただけでこんなにも愛しい気持ちにかられ、今すぐにも抱き締めて、キスして、蕩けた顔を見たくて仕方なかった。
そんな邪心を振り払うように、首を左右に振る。
嫌われてしまったら、ひとたまりもない。
友達としてでも良いから、側にいたかったのだ。
「ここまで来れば、大丈夫だよな」
視聴覚室に着くと、辺りを見回してドアを閉める。
そしてくるりと振り返ると、篠から手を離した。
それを残念そうに篠の目が見つめる。
「あ、っと…その、な…、昨日の事なんだけど」
結愛が言いにくそうにしていると、篠がその言葉を遮った。
「キスしたり、触ったりした事は謝らない。俺は本郷が好きだから、側にいて、二人きりになったらどうしても愛しくて止まらない」
真剣な表情で篠が再び告白する。
そのストレートさに、結愛は情熱的だと顔を赤らめた。
「あ、うん、そうか…」
「昨日も伝えたが、本郷の事が好きだ。今は友達としてしか見れないかもしれないが、意識して欲しい。いつまでも待つから、俺を好きになってもらえないか?」
真っ直ぐすぎる告白に、結愛の心臓がバクバクと音を立てる。
昨日もそうだが、篠の気持ちを知って嬉しかった。
それがトリップして心細いからなのか、篠自身に惹かれてるからなのかはまだわからない。
だけど、キスも胸への愛撫も決して嫌ではなかった。
むしろ、あのまま千尋が来なかったら、流されて受け入れていたかもしれない。
それくらいに結愛の心は揺らいでいたのだ。
「おう…その、付き合うとか、好きとか、男に対して意識してなかったから…昨日も言ったけど夜蔵の事を友達としてなのか、そう言う意味で好きなのか、正直まだわからない。でも、それでも…俺の気持ちがハッキリするまで待っててくれるなら、ありがたいと言うか」
結愛は顔を真っ赤にして伏く。
その目はうるうると潤んでいた。
「こんな事を言うのは夜蔵には残酷かもしれないけど、俺の側にいて欲しい…。いつかちゃんと答えを出すから、だから…」
言いかけた所で、篠に抱き締められる。
「残酷なんて思わない。俺が本郷の側にいる理由が欲しいんだ。例え叶わなくても、好きでいる事だけは許して欲しい」
篠の苦しそうな声が響き、篠から香る石鹸の匂いと体温にほっと一息つく。
居なくなってしまうのではないか。
一人にされてしまうのではないか。
篠と言う存在がなくなってしまったら、きっと自分はダメになる。
トリップして初めて心を許せた人間だから、依存にも似た、そんな独占欲が結愛の中で生まれているのだ。
「夜蔵、俺、お前の事が好き。その…意味合いは違う好きなんだけど…それでもいいなら、俺から離れてかないで…」
結愛は篠の背に腕を回すと、ぎゅっとその胸に抱きついた。
この好きは親愛の好きであり、きっと意味はないんだろうとわかっている。
それでも結愛から必要とされる嬉しさに胸が弾むのだった。
「ああ、どんな好きでも構わない。俺が本郷を離したくない。側にいて欲しいのはこっちのセリフだ。すまない、俺は本郷の優しさにつけこんでる。好きなんだ、…愛してるんだ」
耳元で甘く囁かれ、結愛の胸がきゅんと高鳴る。
互いの心臓の音が大きく音を立てるのを感じた。
2024.08.30
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