避けられない道
ほとりが生徒会室へ着くと、半年間も滞っていた書類を手渡す。
その数は百枚以上で、あまりの出来事に何事かと驚かれた。
だが、相手はほとりである。
質問されたからと言えど、相手が年上だろうが、生徒会長だろうが、必要最低限の言葉以外は話さない。
さすがである、咲雨ですらブレないほとりを感心したのだった。
「ところで、御子神」
帰ろうとドアの方を向いた瞬間、咲雨から声をかけられた。
もう話す事はないだろと言わんばかりに、目線だけを向けて睨み付ける。
「相変わらずだな、お前は」
苦笑いしか浮かべられない咲雨に対し、早くしろとでも言うように貧乏揺すりを始めた。
「ほとりちゃん、アカンやろ?折角、咲ちゃんが声かけてたんやで」
ドアの方から声がし、そちらへ視線を向ければ、何処かへ行っていたのだろう。
飛鳥がロックキーを解除して、室内へ入って来た。
「……万年発情期が…、テメェ…名前呼ぶなってあれ程言ってんだろが…」
生徒会室に入った時、咲雨の姿しかなかった。
だからそこまで苛つきはなかったのに、飛鳥の登場により、ほとりのイライラはマックスになってしまう。
「誤解や、そない年中発情しとる訳やないんよ?ほとりちゃんって名前、ホンマ可愛ぇのに勿体ないわぁ」
飛鳥が悲しそうに、そして残念そうに笑った。
どれもこれも演技だとわかっているから、余計に腹が立つ。
「…テメェ、マジ、くえねぇんだよ…」
ほとりは今にも殴りかかりそうな勢いで、飛鳥の方へと歩き出す。
「何やの?俺の事、もしかして狙うてるん?」
飛鳥はほとりの殺気など気にした素振りもなく、自分の胸を押さえて、モテ期到来や、等とほざいていた。
その様子ですらカンに障る事を知っていて、わざと挑発しているのだ。
「……ぶっ殺す…!」
ほとりは昨日の結愛へのセクハラ行為にも腹を立てていた。
自分の目の前で見せつけるようにキスをし、あまつさえ腕を軽々と払いのけ、反撃しても余裕そうによろけただけだったあの光景が一気に脳裏に過る。
「ホンマ、ほとりちゃんは熱烈やなぁ」
また始まったこの二人の喧嘩に、咲雨が大きな溜め息を吐いた。
会えばいつも飛鳥から喧嘩を吹っ掛け、それにほとりがキレる。
その繰り返しなのだ。
「大友、お前止めろって何度も言ってるだろ」
咲雨の声がし、今までやる気満々だった飛鳥の鋭い瞳がゆっくりと笑顔に変わる。
「咲ちゃんが言うなら、仕方ないねん。少ぉしからかい過ぎたわ、堪忍してやぁ」
近づくほとりから距離を取り、自分の席へと着いた。
ほとりも咲雨の制止がかかれば、飛鳥は素直に謝るのを知っているから、わかってはいても面白くないので舌打ちをする。
「御子神、いつもうちのが悪い。…こいつは根が悪いだけなんだ。俺に免じて、許してやってくれ」
いたって真面目にフォローしているらしいが、とてもそうは感じられない言葉だった。
それに対し、ほとりは小さく吹き出したのだ。
咲雨が本心で言ってるのを知っている為に、笑いが込み上げてきた。
「ちょっ、咲ちゃん!?それフォローちゃうで!
根が悪いて、もうそれ性格悪いよりアカンやつや」
飛鳥が慌てたように、突っ込む。
だが、その言葉を聞いても咲雨は首を傾げて、それの何がいけない、と言ったのだった。
「咲ちゃん、酷いやん。俺が人間としてアカン言わとる気分やわぁ」
飛鳥が一人ズーンと落ち込んでいるのを華麗にスルーして、咲雨が一つの書類をほとりに見せた。
「悪いがここまで戻って来てくれるか」
そう言われて面倒臭いと思ったが、書類を出された為に仕方ないと諦めて近寄った。
「御子神は風紀副委員長になったから、一人部屋になる。それがその書類だ。明日の放課後までに提出してくれ。移動は明後日の日曜にしてもらう」
その言葉に、ついにこの日が来たかと観念する。
今までだったら、一人部屋と言われてむしろ喜ばしい事だったが、結愛との生活がほとりの一部になってしまい、自分で副委員長になると決めたにも関わらず、諦めがつかなかったのだ。
こうして改めて突き付けられると手放したくない、そんな思いにかられ、ほとり自身が一番困惑していた。
自分の中で、己すら認めてない感情が動き始めていたのだ。
往生際が悪いとは、この事なんだろう。
2024.09.02
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