tori


蛇とハムスター


永久が柚希を三年の教室まで送ってくれると言う。
やはり柚希は結愛が良いと言ったが、彼はまだ編入したばかりな為、教室まで辿り着けても帰って来れないからと却下されたのだった。
その途中、終始二人は無言である。
それはと言うと、柚希がプンプンと怒っているからだ。

「志摩さん、本郷くんはまだこの学園には不馴れですから、僕で勘弁してもらえませんか?」

困ったように微笑む永久の笑顔に、柚希は見向きもしない。

「…おや?嫌われてしまいましたかね」

参ったとばかりに、両手を顔の近くまで上げて、降参のポーズをする。

「犬神くんはわざとなんだよね?……わかってるよ、僕が本郷くんを好きになったから、近寄らせたくないんでしょ…」

ぷくぅっと頬を膨らませ、未だにプンスカプンスカしていた。
だが、元々大人しい柚希が怒っても、それに気づける人間は近しい人だけ。

「……何故、僕がそんな真似を?」

意味がわからないと永久は首を傾げる。

「そんなの言わなくてもわかってる癖に…。本当に昔からわざとらしいよね…」

柚希が怒るのも無理はない。
実はこの二人、従兄弟同士なのだ。
そして、柚希は昔から可愛くて女の子みたいと言われ、周りからチヤホヤされてきた。
チヤホヤと言っても良い意味かと言われればそうではない。
男の子が好きなショタコンや、悪戯目的が多いのだ。
だが、柚希だって男であり、そんな対象で見られるなんてもっての他だった。
男に可愛いなど言われて、嬉しい訳はない。
柚希は外見も中身も大人しい為、よく同性から狙われる事が多い。
そうして守ろうとした人間が何人、その庇護欲に当てられた事か。
守っている内に、本気で好きになられるなど日常茶飯事なのだ。
大事な可愛い後輩が、このチワワに惚れないとは限らない。
そんな事になれば、自ら危険に飛び込むだろう。
そんな事は許せない。
永久にとって、結愛は本当に色んな意味で大切な存在なのだから。

「はて?そうでしょうか?僕には全く心当たりありませんね」

永久がわざとらしくとぼける。

「ねぇ、犬神くんも本郷くんが好き、なんて言わないよね…?」

柚希は心配そうに尋ねた。

「どうでしょうか。僕は同性を好きになった経験がありませんからね。ないとは思いますが、ゼロではないのも確かです」
「その含みがある言い方、凄く苦手だよ…。ちゃんと答える気ないよね」

永久は否定も肯定もせずに、ニコニコ笑っていた。

「僕、本郷くんの親衛隊隊長になる」

その言葉に、永久が微かに驚いた。

「それで満足なんですか?付き合いたいとか、ないんですか?」

柚希が顔を真っ赤にして、いずれはそうなりたい、と答えた。

「今は側にいる理由が欲しい。犬神くんに風紀入りたいって言っても、無理なんだよね?」
「はい、僕の認めた人間しか入れる事は出来ませんからね。志摩さん、凄く弱いじゃないですか」

爽やかな笑顔で駄目出しする永久に手加減なんて言葉はない。
むぅっと頬を膨らませ、柚希は本当嫌い、と口にした。

「まぁ、せいぜい頑張って下さい。志摩先輩」

そう挑発するように永久が微笑む。
それを可愛い大きな目で睨んだ。
蛇とマングースならぬ、蛇とハムスターと言った所だろう。
勝敗は見えているが、ハムスターでもやるんだぞって所を見せたいと思う柚希だった。


(絶対に本郷くんは渡さないんだから…。)


2024.09.02

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